飛花落葉のように。【原神】 (ページ16)

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「お前に名を呼ばれるのは、幸せなことだな」

Aを撫でていた手を止めて鍾離が呟けば、彼女は顔を上げて彼と目を合わせる

「今、心を覗いた？」

「同じことを思っていたのか？」

自分が考えていたことと同じようなことを言うものだから、まさかと思って聞いたが、返ってきた質問から察するに違うようだ。鍾離の問いを正直に肯するべきか、彼の琥珀色の瞳があまりにも嬉しそうだったので、Aは迷う。そして逃げるようにまた額を彼の肩にくっつけた

心を覗かずともその心中を全て理解っている鍾離は、くすくすと微笑して彼女を撫でる手を再開する。まるで子供を宥めている手つきに、Aは一度、回した手にぎゅっと強く力を込めた後、今度は体ごと鍾離から離した。あっさり消えた熱を追って彼の手が宙を彷徨う。手持ち無沙汰、といった様子だった

「……もういいのか？」

「う、……名残惜しいけど、もういい。このままでは寝てしまう」

「ははっ、そうか。…うん、そうだな。俺もお前と共にいると、安心して寝てしまうかもしれない」

わかる、と強く頷いたAは立ち上がり、鍾離に手を差し出す。普通は逆だろうと彼は思って、しかしこれも懐かしいなと手を取った

「座るといい。茶を淹れよう」

話したいことがあると言った彼に、ただ会いたいから呼び出したのではなくて、やはり本題があったのかとAは少し残念に思ったが、それでは「会いたくない」と思っていた自分があまりにひどい奴だなと、何も言わず席に着く。いや、本音では会いたいと思っていたとも。会うのが怖かっただけで

手馴れた様子で準備する鍾離を頬杖をついて眺め、彼手づから茶を淹れてくれるのもいつぶりかと思い返した。今日は懐かしいと思うことばかりである

長くとかからず淹れ上がった茶が目前に差し出され、清涼感のある香りが鼻腔を擽った。これは…と、その正体に気付きながら茶杯を手に持ち、ふぅと湯気を逃がす。ひとつ口をつければ、やはり思った通りの味がした

「清心？」

「ああ。清心を使った茶だ。好きだろう？」

「うん。美味しい」

もうひと口と杯を傾ける彼女を見て、好みは変わらぬままかと鍾離は安堵する。Aが、今の彼は昔と同じままなのかと不安に思っていたように、鍾離もまた、そう思ったことがあった