検索窓
今日:15 hit、昨日:113 hit、合計:39,585 hit

再会_1 ページ15

.



「もういちど」

鍾離の服を引っ張って、もう一度呼んでと彼女は強請る。一瞬、呆気に取られ体を離した彼は、涙に濡れた瞳が射貫くように見上げて、しかし不安に揺れているのを見て、彼女がまるで幼子だと破顔した。もちろんと深く頷く


「これからは何度だって呼ぼう、A。お前も、俺の名を呼んではくれないか」

先程ひと粒流して止まっていた涙が決壊したようにしとしとと流れ出してしまって、鍾離はまた困ったように眉を下げた。けれどAは、ひどく嬉しそうに微笑んでいる。やわく下がった眦と、ゆるゆると線を引く唇と、ほんのり染まったまろい頬が、幸せだと表現していた


「…うん、うん。モラクス」

白い手が伸びて鍾離の頬を撫でる。目元を親指がやさしくなぞって、そのまま額へと移った。前髪に手背で触れて軽く掻き分ければ、顕になった顔を見て彼女は満足したようだった。最後に崩した髪を整えてやって、その手で、今度は自分から鍾離を抱き寄せる

己よりもずっと大きい背に腕を回し、肩口に額を押し付けた。ほうと息をつけば、慣れた岩元素が身に染みるような感覚を受ける。とんとんと背を撫でる鍾離の手と、やわらかい彼の香りに落ち着く心地がした


「ただいま、モラクス」

呟いた声に応えるように、背にあった彼の片手がAの後頭に伸びる。ひと撫でしては髪を梳いて、幾度かそれを繰り返していた。されるがままに大人しくしていれば、彼女の涙は引っ込んで、代わりに目元をひりひりと多少の痛みが主張しだす。赤くはなっていないだろうと予測して目を閉じた


名を呼び合うのは幾ぶりか。おかえりと、Aと、その言葉が懐かしくて、聞けたことが嬉しくて。だからこそ、名を呼び合わなかったあの頃がひどく悲しいことに思えた。呼ばれる度にそう思ってしまうだろう。だから記憶を塗り替えてほしくてもう一度と強請った。あの頃が無くならない事実だとしても、嬉しい時にまで思い出さなくて済むように


呼ばれなくなってはじめて、名を呼んでもらえることはとても幸福なことだったのだ気付いて。それを今日、また知ることになった

実は私、ずっとAと言ってほしかったと、その本音をモラクスに吐露してしまいたく思って、やはりいいと言葉を飲み込む。今はただ、ここにぬくもりがあるだけで、それでいい

_2→←_14



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (105 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
251人がお気に入り
設定タグ:原神 , gnsn
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。