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反射的にか意志をもってか、とにかく後ろ手で扉を押さえて背中を預ければ、開けようとしていた手は止まる

「……ん?」

不思議がる声がして、それだけで、きゅっと喉の奥が鳴った。どうかしたのかと続いた声に固く瞼を閉じる。低い声が、記憶のまま変わらぬ声が、あまりにも懐かしくてたまらなくて、あっけなく泣いてしまいそうで。そんな己を情けなく思った

問いに答えようとして口を開くのに喉は焼き付いたように熱く、吐いた息は震えていて、とてもじゃないが話せたものではない。あぁもう!と奥歯を噛み締めて声を振り絞る


「わたし、き……きみに、あわせる顔がない…」


扉の向こうは、黙ってしまった


だってそうだろう。どんな顔をしろと。どんな気持ちで笑えというんだ。誰よりも長く、誰よりも近くにいたのに、最後には名前すら呼ばれなくなって、私も呼ばなくなってしまった。それを友と言えるのか。今の彼を、友と呼べるのか

別れはひどいものだった。愛情と執着と、思慕と憎悪が飛び交って、私も彼も、ひどい顔をしていた。そして確かに互いの同意の上で、契約を取り消した。出会った頃、手を取り合って信頼を結んだ私達は、言葉ひとつで互いを手放して、そうして関係が終わった

後悔していないわけがない。けれどそれ以上の道もなかった。どうしたって、ああなっていただろう

彼が最後になにを言ったか、なにを思っていたのか、もはや知る術はないけれど、恨まれていないといい。名前を呼んでくれていたらいい。それだけでいいと、それすら叶わないことが、ただ怖かった。だから、会いたくない


「……俺は」

離されていた彼の手が、また扉に掛けられる。力は篭っていなかった。添えるようにしてやさしく触れて、次いで、とんと頭を預ける。いま彼らを隔てるものは、たった一枚の扉だけだった

「俺は、お前の顔が見たい」

はっと息を呑んで、少女はずるずるとその場に腰を下ろす。扉を開けない為の力は、もう使えようもなかった。負荷の消えた扉から入った鍾離は、座り込んだ彼女の前に膝をついて、はらりとひとつ零れた涙を拭ってやる


「なにを泣くことがある」

頬を撫でて、熱を確かめて。彼女はここにいると。困ったように、けれど心底嬉しそうに笑ってそっと抱き寄せた


「おかえり、A」


それは少女が呼んでほしいと、願い続けた名であった

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藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時

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