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あ、そうそうと思い出したように名乗り出した堂主に案内されるままついて行けば、その道すがら若い従業員たちが講師と思われる者から講授している様が見えた。堂主によると、その鍾離という男から「近々、俺を訪ねて来る者がいるだろう」と聞いていたようだが、もしや邪魔してしまったのではないだろうか。しかし中へ通されたということは、おそらく問題ないのだろう
前を歩いていた胡桃は、少女の視線が講義中の者たちへ向いていると気付いて振り返る
「今の時間なら、鍾離さんの手は空いてるから大丈夫だよ。なによりお客さんが来たっていうなら、ちゃーんとおもてなししないとね!」
安心してと言うようにパチンと片目を瞑る彼女の、若いのになんと気が利くことか。胡桃の普段の破天荒さを未だ知らぬ少女は、それはよかったと感心して頷いた
「じゃあ、ここで座って待ってて。すぐに呼んでくるから」
踵を返した彼女の、鍾離さーん!と叫ぶ声が遠ざかっていく。慌てずともよいのに走っていってしまうのは、まるで幼子か、じゃじゃ馬のようだ
_通された客間は机と椅子と、観葉植物と本棚のある落ち着いた部屋だった。窓から差す木漏れ日がほどよい具合で、天気の良い日に窓辺で書物でも読めば、それはそれは気分がいい事だろう。残念ながら、今の少女の気分は最悪だが
扉から動かず、座ることも出来ず、ふうと息を吐く。今から鍾離が来るらしい。誰だそれは!と心で叫んだ。今の名であろうことは分かる。けれど、往生堂の客卿?葬儀屋の講師?鍾離先生などと気軽に呼ばせて、彼は一体何をしているんだ
千年も音沙汰なかったのに、今更会おうとすることだって気が知れない。わからなくて、落ち着かない。そもそも千年以上前から、まともに顔を合わせてもいない__
はた、と思考が止まった
…………そうだ、もうずっと、彼を知らない。記憶の中でしか、知り得ないのに。今ここに居る彼は、本当に私の知る彼だろうか?
滝のごとく激しく降る雨のように不安が押し寄せて、風船が弾けて割れるように、心が勢いを失ってしまう。帰って、しまって。会わない方が…とまた思考を繰り返したとき、コンコンと均等に扉を叩く音がして、どっと心臓が音を立てた
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藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時