飛花落葉のように。【原神】 (ページ11)

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心配されに来たわけではないのだと、握られた手を解いて木箱の蓋を閉じる。そっと掌で表面を撫でれば、箱も心做しかひんやりとしていた

「これを預かっていて…いや、渡してほしいひとが居てね」

「……君からは、渡さないのか？」

小さく放たれた言葉がなんだか温かみをもっていて、少女は思わず顔を上げる。けれど目の前に立つ彼はちっとも笑っていなかった。相変わらずの仏頂面で、しかし瞳だけがこちらを気遣っているようでいて、ふと口元が緩む

「そうしたいのはやまやまなんだけどね、間に合いそうもないんだ」

「どうして」

反射的に言葉を返したが、ディルックは答えが分かっている気がした。分かっていて、なんとなく気付いていて、それでも聞いてしまったのは

「璃月に帰るからだよ」

それを、言ってほしくはなかったからだろう

「＿＿…そうか」

カウンターと酒瓶と、奥で酒を飲む客達に順々と目を向けていったディルックは、やがて重苦しく言葉を紡いで目を伏せた

父の時のように今生の別れでもあるまい。止める権利も無く、止めたいとも思わない。ただ。…ただ、少し惜しいと、思うだけだ。友と言うには浅く、ただの客と言うには知りすぎてしまった。けれどもやはり友ではないから、寂しくなるなど、言えやしない。こんなことを考える日が来るとは、ディルックは思ってもみなかった

「わかった、請け負おう。渡す相手というのは？」

「テイワットいちの吟遊詩人かな」

「……君、吟遊詩人なんてどこにでもいるだろう」

「時が来ればわかるよ」

「…なら、いつ頃渡せばいいんだ」

「それも時が来ればわかる」

君な…と、今度ははっきり呆れ顔を返された。渡す相手を間違えても知らないぞ、と。いいや、間違えないだろうと少女は確信している。彼は聡明で、感が良く、モンドを想うが故に巻き込まれてしまうだろうから。そしてなによりも、彼女が「一番だ」と褒め称える詩人は、この世にたったのひとりだから

「渡すときに、再会した旧友と乾杯してと、伝えてほしい」

「…そうしよう」

ディルックがしかと木箱を受け取るまで見届けて、ありがとうと微笑する。彼が見てきた中でいっとうやわらかく、懐かしんでいる表情だった

「では、蒲公英酒を一杯くれる？」

そうして向き合った少女に、とびきりのものをと、ディルックも微笑み返した