夕立に流離う / ヒュース ページ12
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夏の天気は変わりやすい。スーパーの自動ドアをくぐれば鈍色の空がオレたちを迎え、やがて降り出した大粒の雨が地面の色を変えていった。
「あちゃー、降ってきたね」
夕飯の食材が入った袋を肩に掛け直してAは鞄の中を漁り出す。
そこから何かを取り出したと思えば、悪戯そうに口角を上げてゆるりとオレの顔を見上げた。
「折り畳み傘あるよ、一つだけ」
「何故二つ持ってこない」
「……ヒュースと相合傘したかったから？」
「はあ……」
それだとおまえが濡れるだろう、と呆れるオレを押し切って、Aは開いた傘の中へオレを引き入れる。
至近距離で見るAの体は思っていたよりも小さくて、オレが触れれば簡単に壊れてしまうんじゃないかと不安になった。
「最後だからさ、近くに居てよ」
自分より下の位置にある頭を見つめてもその表情は髪に隠れてよく見えない。
最後だから、と自分に言い聞かせるように繰り返して、Aは傘の柄を握りしめた。
＿＿＿アフトクラトルへの遠征が決まったらしい。
日程は一週間後。選抜試験を勝ち抜いたオレたちがそれを聞いたのは今から6日前のことで、急遽決まったそれに喜びよりも困惑が勝つのが分かった。
だって一週間、なんて、そんなのあまりにも突然過ぎるだろう。
いつか別れの時が来るとは覚悟していた。しかし思い掛けなく明確になったその日がほんのあと数日後に訪れるだなんて、信じたくなかった。
『よかったね、ヒュース、ずっとこの日ために頑張ってたもんね』
何でもないことのようにそれを受け入れるAが不思議でならなかった。なんでおまえはそう笑っていられるんだ、と怒りたくなるほど、オレはもうとっくにこの場所が大切になっていたというのに。
Aは、オレともう二度と会えなくなっても平気だと言うのか。
そんなわけが無かったと知ったのは、その日の夜部屋の隅で蹲るAを見た時だった。
「A」
名前を呼んで顔を覗き込めば濡れた瞳がオレを捉える。
オレの前では平気そうに振る舞っているこいつが、別れの日が近づく度一人で泣いていたのをオレは知っていた。
「ヒュース……？」
息がかかるほど近づいた距離にAの瞳が大きく見開かれる。それから柔らかな頬に指を滑らすと、肩に下げた買い物袋ががさりと音を立てた。
雨に打たれ冷たくなったAの指先をそっと包み込み、オレは目を閉じる。
ふ、と漏れた息が、雨に溶けて消えた。
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ピンス(プロフ) - 待ってます‼︎ (11月23日 20時) (
レス) id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
藤丸(プロフ) - ピンスさん» ありがとうございます！これからもお楽しみいただけるよう頑張ります。 (11月15日 22時) (レス) id: ad8b4578d9 (このIDを非表示/違反報告)
ピンス - ワートリの短編集好きなので楽しみにしてます！ (11月14日 22時) (レス) id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藤丸 | 作成日時：2023年4月11日 23時
