五月雨のリズム / 雨取千佳 ページ1
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ポツ、ポツ、ポツ＿＿＿
誰もいない静かなリビングでひとり五月晴れの空を眺めていると、何処からか控えめな雨垂れの音が近づく。
ドアの向こうから聞こえてくるそれに、私はくるりと振り返った。
「……雨取さん？」
「あ、気づかれちゃった」
『音』で、ね。そう言うと彼女はそうだったね、といつものように笑った。
「Aちゃんのそれは、どういうふうに聞こえるの？」
「……えっとね、」
こちらへ向かってくる彼女の規則的な足音が心地よくて、投げかけられた質問に一瞬反応が遅れる。
それを見て何か勘違いしたのか「言いたくなかったらいいよ」と慌てる彼女は、きっとどこまでも優しい。
「気遣わなくていいよ。別に隠してるわけじゃないし」
私には人の心音が擬音で聞こえる。ランクB、特殊体質のサイドエフェクトだ。
今しがた聞こえた雨垂れの音は、彼女が生きていることを証明する心臓の音だった。
「雨取さんからは雨みたいな音がするよ」
私この音好きなんだ、と伝えると彼女は少し照れたようにそっか、と微笑んだ。
「じゃあ、Aちゃんはわたしと居ると天気を勘違いしちゃうね。」
そう静かに呟いた彼女に思わずぴくりと指が震える。
彼女から聞こえてくる音はいつもと変わらないのに、どこか知らない音みたいで私の心臓は嫌に騒いだ。
「雨取さん……？」
彼女の細い指がそっと私の髪に触れる。そのまま毛束を梳くように、最後は少し毛先を撫でた。
困惑する私に優しい雨垂れの音が降り注ぐ。
暗闇で響く彼女の音に、私は深く呑み込まれてしまいそうだった。
「……わたし、Aちゃんのこと好きだよ。」
だから、わたしがAちゃんの『目』になるよ。
「っ……」
ポツ、ポツ、ポツ＿＿＿
いつもと変わらぬリズムでそんな言葉を紡いだ彼女は、その時何を考えていたのだろうか。
「そ、れは」
「あ、修くんたち帰ってきたみたい」
辛うじて絞り出した声は彼女に届かず、無情にも優しい音は離れていく。
ゆっくりと時間が流れるこの空間に雨音を残して、彼女はドアの向こうへと姿を消した。
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ピンス(プロフ) - 待ってます‼︎ (11月23日 20時) (
レス) id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
藤丸(プロフ) - ピンスさん» ありがとうございます！これからもお楽しみいただけるよう頑張ります。 (11月15日 22時) (レス) id: ad8b4578d9 (このIDを非表示/違反報告)
ピンス - ワートリの短編集好きなので楽しみにしてます！ (11月14日 22時) (レス) id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藤丸 | 作成日時：2023年4月11日 23時
