英雄から九歩 ページ10
「よっ、と。はい、これお粥」
奴が出て行った扉から再び戻ってきた。
『いらないって言ったじゃないですか』
「敬語はいいよ。でも食べたいでしょ?
昨日から何も食べてないんだからさ」
『食べたくありません』
「敬語いいって。まぁそうだよねぇ……食べても吐くしかないからね」
奴は傷を舐めるように視線を這わせながら言う。
『……』
「でも、だとしてもなにか口にしといた方がいいよぉ?そうでもしないと回復するものもしないし、それじゃあ楽しくないからねぇ」
『……?楽しく……?』
「あっれ?言ってなかったっけ?
君をここに連れてきた理由」
奴は含みをもった言い方で、もったいぶって焦らすように言う。
『何ですか?それ……』
「ふふっ、あのねぇ、俺が君をここに連れてきた理由っていうのは、君と戦ってたいからだよ」
『戦っていたい……?』
戦いとは、本来、避けるべき、忌むべきものでは無いのか、と悶々としていると、奴はけろっと言ってのけた。
「俺は悪だからねぇ。戦いを純粋に望んでるんだよ。だから争いはなくならない。望む俺らがいる限り、ね」
胸くそ悪い気分になっていると、けど、と奴が付け足して言った。
「俺、気づいちゃったんだよね。勝てば勝つほど俺らは強くなるけど、その分楽しくなくなるんだよ、戦うことが。あっさりみんな倒れちゃってさ、つまんなくなっちゃったんだ」
あまりにその言い方が無邪気で、一瞬奴が何を言っているのか理解できなかった。
理解して、激しい怒りに襲われた。
『私たちが、あれだけの覚悟と犠牲を払って、あんなに必死で戦っていると言うのに……!!!お前らは……!!』
「叫ぶとまた傷口開いちゃうよ」
そう言いながら傷口に手を押し当てられる。
『な、にを……ぐっぅ、くっ!!!』
焼けるような激痛に顔を歪ませると、奴の愉快そうな笑い声が頭上から降ってきた。
「いいねぇ、その顔!
早くその傷治して、俺を楽しませてよ。やっと見つけたんだから、俺と対等に戦える人。
だから、ねぇ、俺を幻滅させないでねぇ?」
頭に血が上って、言い返したくなる衝動に駆られながらも、痛みで口から漏れるのは意味の無い呻き声だけだった。
────こいつらはイカれてる、そう思った。
To Be Continued
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こんにちは - とても面白いので更新期待してます……よろしくお願いします! (2022年8月29日 18時) (レス) @page15 id: 561b81e9d3 (このIDを非表示/違反報告)
あの。(プロフ) - ここさん» ありがとうございます。私情でしばらく筆を置いてしまい、お待たせしてしまっています。これから更新していこうと思っていますので良ければ気長に待って貰えると嬉しいです。 (2020年2月9日 8時) (レス) id: d990767fad (このIDを非表示/違反報告)
ここ(プロフ) - とても面白かったです(^-^) 更新をお願い致します!! (2019年12月29日 2時) (レス) id: 9ab82a9f0f (このIDを非表示/違反報告)
あの。(プロフ) - あかさたなさんさん» 嬉しいコメントありがとうございます。遅筆ですが自分なりに頑張っていきたいと思います。励みになります。 (2019年10月6日 19時) (レス) id: d990767fad (このIDを非表示/違反報告)
あかさたなさん - お話面白かったです。これからも頑張ってください。 (2019年10月6日 16時) (レス) id: e7421af52a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あの。 | 作成日時:2019年3月23日 16時