愚者の王冠 (ページ28)

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入場ページ28

「いや！俺相手にファンサしてどうすんだよ！」

triggerの笑い声に遠目でやりとりを見ていたスタッフ達からも笑い声が溢れてくる。
長寿の域に片足を突っ込んだ番組の今日の収録も和やかな雰囲気で進みそうだ。スタッフ一同そう思っていた。

「クラウンさん入りまーす」

その声が響くと同時に空気が僅かにひりついた気がした。
集められた視線をものともせず悠然とスタジオに足を踏み入れた3人組は、白と黒の意匠違いのパーカーを目深に被り、アイドルというより学生バンドのような印象を受ける。

「ねえ、あれって青井さんかな？」

「あ、本当だ」

「あおいさん？」

「俺たちの舞台で演技指導してくれた人だ」

話し声が聞こえたのか、クラウンの後ろをゆっくりと歩いていた男性がくるりとこちらを向いた。
3人に何か声をかけると、そのままこちらに向かってまたゆっくりと歩いてくる。

「お疲れ様です。お久しぶりです、青井さん」

「おつかれさま。そうか、君たちはこっちの方が舞台だったね」

近づいてくるとゆっくりとした足取りがどちらかと言うとゆらゆらと少しおぼつかない様に見えた。

「青井さんがテレビ局にいるなんて珍しいっすね」

「今日は付き添いを頼まれたからね」

「それではリハーサルに入ります！出演者の方々は先に説明させて頂いた順に壇上にお願いします！」

自己紹介をするべきかタイミングを伺っていると、スタッフの声がかかった。
この番組の流れは、MCのミスター下岡と出演するアーティストが対談をし、簡単に曲紹介をして演技を行うと言うもの。
本番は一連の流れに沿って行われるが、ミスター下岡の時間が取れないことが多いため事前に対談の内容だけ確認してリハーサルでは演技のみが登壇順に行われる。