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出会いたくなかった香り - 3 ページ6

気がつけば、自分の手を妹が握っていた。

数度瞬きをすれば、自分の立つ場所は戦場ではなく、カフェのカウンターで...自分がまた『過去』をさまよっていたことに絶望した。


「大丈夫か、顔色が悪いぞ」


目の前にいた先ほどのお客さん、確か名前は『アカイ』といったか...彼は、私の顔を怪訝な表情を浮かべながら見つめる。

そんなに見つめたって、何も出やしないし、ちょっと放心してしまっただけで、大したことではないのに。


「気にしないで。注文、どうぞ」


少しだけ乾いた声を放って、私はメニューを指差す。

私は、彼と会うのは今回が初めてで、『いつもの』と言われても対応しかねるので、メニューから名前をしっかり拾ってもらいたいのだ。


「お姉ちゃん、絶対大丈夫じゃないって」
「アリ、黙って」


妹はコーヒー豆を移し替えながら、深刻そうな声色で言葉を投げるが、私はそれを受け取らない。

誰かに心配されることが、あまり好きではないからだ。

なんというか...自分が弱い者として見られているようで、苦手なのだ。


「では、アメリカンをアイスで」


彼は、私と妹のやり取りを一線を引いた立ち位置から眺めた後、私にもわかるような注文をした。

彼の言う通りにレジを打ち、妹にはプラスチック製のカップを投げ渡す。

少しだけ3人の間の空気は淀んでいたが、気にするほどのことではない。

私はレシート、妹はアメリカンコーヒーを彼へ渡す。

骨ばった、男性らしい手へ。


傷が少し目立つ彼の手を観察しながら、気分をリセットしようと肩を回そうとした時、妹が「あ、そうだ」と声を漏らした。


「...お姉ちゃん、この方はこのお店をオープンした時からの常連さんで、FBI捜査官の赤井さん」


突然始まった、紹介タイム。


「赤井さん、私のお姉ちゃんのA」


妹の言葉に、頭を下げながら『アカイさん』という人へ右手を差し出した。


「よろしく、赤井さん」
「姉にしては、あまり似ていないな」


力強く握手をした後、私は彼の言葉に乾いた笑いを零してしまった。


「複雑なの」
「そうか」


私の家族は、私がいなければシンプルな家族なのだが、私がいるから少し家庭環境が複雑になっている。

何と言っても、私だけ血のつながりがないのだ。


「俺の家も、複雑でな。同情するよ」
「同情なんていらないけれどね」


怖そうな顔なのに、意外にも言葉は優しい彼へ噛み付く私。


誰かに、慰められたり、同情される自分は死んでも見たくないのだ。

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(プロフ) - 完結おめでとうございます!シノユズさんが創り出すユーモアがありそれでいて繊細な世界がとても好きです。今まで素敵な作品をありがとうございました!これからもオムニバス作品も応援しています! (2018年11月16日 23時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)
Ramu(プロフ) - お疲れ様でした!シノユズさんの作品、シノユズさん本人、本当に大好きです!これからも陰ながら応援してます。 (2018年11月15日 22時) (レス) id: a6556beed0 (このIDを非表示/違反報告)
nyaaaaaaa(プロフ) - 素敵な作品を有難うございました(^^)SNYZさんのカッコいいようで繊細で優しい表現が大好きです。特に09が好きだったので少し寂しいですが…(;o;)もしいつかまた機会があれば続きを書いて頂けたらなぁなんて…(*^^*)(無茶ぶりすみません苦笑)今後も応援させて頂きます! (2018年11月14日 0時) (レス) id: 41b196ef5e (このIDを非表示/違反報告)
SNYZ(プロフ) - Chi-Roさん» 初期の作品から...ありがとうございます!自分の世界観を気に入っていただけて、非常に嬉しいです...!応援にお応え出来るよう精進してまいりますね! (2018年10月10日 10時) (レス) id: 87eaa377ed (このIDを非表示/違反報告)
Chi-Ro(プロフ) - シノユズさん» 中学の時にMINT GREENでシノユズさんのファンになってからずっと読み続けています。他にはないしっとりと心に溶け込むシノユズさんの世界観が大好きです。これからも応援してます! (2018年10月8日 21時) (レス) id: 635f713535 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn  
作成日時:2018年7月31日 0時

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