出会いたくなかった香り - 2 ページ5
西アジア、砂漠地帯
ひどい頭痛を引き起こす戦闘機のエンジン音、薬莢がそこらじゅうで転がる音。
乾いた風には細かい砂埃が混ざり、布で鼻や口元を覆わなければ咳き込んでしまう勢いで、私たちの隊の周りを吹き荒んでいた。
『次の合流地点まで歩きは無理だよ』
ライフルを背負って、私は隊長だったライアンの背中へ言葉を投げかける。
『助けを呼ぶにも、回線が繋がらない。歩くしかないさ』
任務を終えた後、トラブルが重なり迎えを呼ぶことができなかった私たちは、次の合流地点まで永遠に続く砂漠を歩いていた。
肌に突き刺さる日光、砂漠の中にポツリポツリと雑に立ち並ぶコンクリ作りの廃墟。
怪我をした仲間がライアンの背中で痛みに苦しむ姿。
まさに地獄だった。
額に垂れた汗をぬぐい、ふと沈黙のその先へ耳を傾けたとき、邪魔が入った。
『囲まれているぞ!』
後方にいた仲間が叫んだ瞬間、銃声が響いたのだ。
ずっと後ろの砂丘の間から現れた数台のジープ、敵が私たちを追ってきていたのだった。
数名の仲間が砂に倒れ込み、私たちはすぐそばの廃墟へ身を隠す。
生き残るためには、多少の犠牲も必要だった。誰かをかばうために死ぬような気持ちがあれば、きっとこの時私はすでにいなかっただろうし、実際あの場にいて見ればわかることだが、人の命になんて構っている暇はない。
確かに仲間ではある。でも、それぞれ自分の命を守るための仲間なのだ。
「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」なんて考えは戦場には存在しない。
『緊急回線が使えることを祈るか...今なら中将率いる部隊が近くにいるはずだ』
3時間前の時点では、6人いたチームのメンバーはこの5分で4人になり、今怪我をしていないメンバーは私と隊長のライアン、そして同期のドムの3人であった。
『私は弾切れ。ナイフと手榴弾2つで、けが人1人と仲間2人...勝ち目はない』
今にも崩壊しそうな壁に背中を合わせながら、手榴弾に指を滑らせる。
『自分の身を守ることだけ考えておけ』
本部へ緊急連絡を入れようと奮闘するドム。
怪我人を背負いながら、私の方を軽く叩くライアン。
鼓膜が引きちぎれてしまうのではないかというほどの爆音を感じたのは、2人から視線を外した数秒後だった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん...ちょっと、大丈夫?」
記憶の中の爆風に混じる、柔らかくてあたたかい手のひらが肌に触れる感覚。
私は、安全な場所でひどく混乱していたらしい。
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i(プロフ) - 完結おめでとうございます!シノユズさんが創り出すユーモアがありそれでいて繊細な世界がとても好きです。今まで素敵な作品をありがとうございました!これからもオムニバス作品も応援しています! (2018年11月16日 23時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)
Ramu(プロフ) - お疲れ様でした!シノユズさんの作品、シノユズさん本人、本当に大好きです!これからも陰ながら応援してます。 (2018年11月15日 22時) (レス) id: a6556beed0 (このIDを非表示/違反報告)
nyaaaaaaa(プロフ) - 素敵な作品を有難うございました(^^)SNYZさんのカッコいいようで繊細で優しい表現が大好きです。特に09が好きだったので少し寂しいですが…(;o;)もしいつかまた機会があれば続きを書いて頂けたらなぁなんて…(*^^*)(無茶ぶりすみません苦笑)今後も応援させて頂きます! (2018年11月14日 0時) (レス) id: 41b196ef5e (このIDを非表示/違反報告)
SNYZ(プロフ) - Chi-Roさん» 初期の作品から...ありがとうございます!自分の世界観を気に入っていただけて、非常に嬉しいです...!応援にお応え出来るよう精進してまいりますね! (2018年10月10日 10時) (レス) id: 87eaa377ed (このIDを非表示/違反報告)
Chi-Ro(プロフ) - シノユズさん» 中学の時にMINT GREENでシノユズさんのファンになってからずっと読み続けています。他にはないしっとりと心に溶け込むシノユズさんの世界観が大好きです。これからも応援してます! (2018年10月8日 21時) (レス) id: 635f713535 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn
作成日時:2018年7月31日 0時