シャイでいい - 2 ページ24
クラブの用心棒としての仕事を終え、バイクで帰宅しようと低いエンジン音を唸らせた直後、彼女の肩を誰かが叩いた。
「...赤井さん」
仕事終わりなのか、少し疲れた表情を浮かべている赤井の顔を薄暗さの中で見つめながら、Aは一度エンジンを止める。
そして、煙草を取り出して「一服どうだ?」と誘ってくる彼へ、軽く笑いをこぼすのであった。
「喜んで」
ヘビースモーカーたちは落書きがされた煉瓦の壁へ背中を預けながら、それぞれ手元の煙草に火をつけ、煙を空へと昇らせる。
数分間、2人の間には心地よい真夜中の沈黙が流れた。
路地を行き交う若者たちの笑い声や、酔っ払いが酔い潰れる唸り声を楽しみたいわけではないが、クラブの裏でお互いに並んで煙草をふかすのは嫌いではなかったらしい。
2人は、この数ヶ月この時間をよく共有する仲になっていた。
恋人関係でも、親友でも...ましてや相棒でもない。ただの喫煙仲間として、世間話や昔話をする関係が、心地よかったのだ。
「軍に復帰する」
フウ、と煙を吐きながら、ぽつりと大粒の雨粒のようにAの口からこぼれた言葉。
赤井はそれに、数回ゆっくりと頷くのだった。
「随分と早い決断だな」
「彼の遺体が見つかった。現地の墓地に、仲間たちと埋葬されているらしい」
「...そうか」
彼の遺体、ケネスの遺体がようやく見つかった。
その連絡を受けたのは、Aが中将たちと会った数日後で、ケネスの両親から連絡を受けた時、心の底に安堵が広がった。
死の直前、生還した部下へ彼が託した軍の認識票はAの元へ託され、遺体は不明のまま数年が経っていたが、今月になってようやく遺体が発見されたのだ。
「実際に掘り起こすわけでも、顔を会わせることができるわけでもないのに、現地に戻るのはおかしいこと?」
「いや、おかしくはない。だが...」
赤井は一度口を動かすのをやめ、隣で真剣な表情を浮かべる彼女と軽く視線を交える。
彼女の瞳に温もりというものはなかったが、絶望に似たものも存在していなかった。
「アリとも話したが、君は戦場が居場所なんだ。
ケネスがそこにいても、いなくても。白鮫Aという人間は、戦場を求める」
「正義や悪なんて関係ない、ただただリスクと緊張感を味わいだけなのさ」
さらりとした口調で告げられた言葉。
それは真実でも嘘でもなかったが、Aは「なるほどね」と頷いて小さく笑うのだった。
「...私がいない間、アリをよろしく」
「喫煙仲間だ、喜んで彼女のカフェに通おう」
「ありがと」
「かまわない」
158人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
i(プロフ) - 完結おめでとうございます!シノユズさんが創り出すユーモアがありそれでいて繊細な世界がとても好きです。今まで素敵な作品をありがとうございました!これからもオムニバス作品も応援しています! (2018年11月16日 23時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)
Ramu(プロフ) - お疲れ様でした!シノユズさんの作品、シノユズさん本人、本当に大好きです!これからも陰ながら応援してます。 (2018年11月15日 22時) (レス) id: a6556beed0 (このIDを非表示/違反報告)
nyaaaaaaa(プロフ) - 素敵な作品を有難うございました(^^)SNYZさんのカッコいいようで繊細で優しい表現が大好きです。特に09が好きだったので少し寂しいですが…(;o;)もしいつかまた機会があれば続きを書いて頂けたらなぁなんて…(*^^*)(無茶ぶりすみません苦笑)今後も応援させて頂きます! (2018年11月14日 0時) (レス) id: 41b196ef5e (このIDを非表示/違反報告)
SNYZ(プロフ) - Chi-Roさん» 初期の作品から...ありがとうございます!自分の世界観を気に入っていただけて、非常に嬉しいです...!応援にお応え出来るよう精進してまいりますね! (2018年10月10日 10時) (レス) id: 87eaa377ed (このIDを非表示/違反報告)
Chi-Ro(プロフ) - シノユズさん» 中学の時にMINT GREENでシノユズさんのファンになってからずっと読み続けています。他にはないしっとりと心に溶け込むシノユズさんの世界観が大好きです。これからも応援してます! (2018年10月8日 21時) (レス) id: 635f713535 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn
作成日時:2018年7月31日 0時