13.宝石の雨(山田三郎) ページ13
宝石の雨は東の街に降る
路傍の排水溝が雨水を吸い込んでゆく。今日は風がうるさくて嫌だ。ぼくは開いたままそこに置いた傘をやっとさして、でも変わらずに佇むばかりだ。
最低の夜だ。星なんか、月なんか、ひとつも見えやしない。よどむ空から雨が、ひたすらに降ってくる。ぼくの囁く声をかき消すその音は、彼女の輪郭すら霞ませる。じわり、ぼくは執着という感情の名を思い出した。
街灯がうすぼんやりと照らすAの身体は雨に濡れて、もうすっかり世界から忘れ去られているかのようだ。あんなにきれいだった髪は、夜の闇にどろりと溶けるように同化してしまって、足元の水たまりにゆらゆら揺れる。「ぼくは彼女のことが好きだったんだ。」ぼくたちのことは世界の誰もしらないでいい。
A。ただ黒く染まるだけ。幼く眠るだけ。
運命は限界を遂げた。
Aが歌を歌わないので、ぼくは傘を捨て、彼女を抱き上げて何処へでもなく歩き出す。全くの力も入れず、雨に散々打たれた彼女の身体は、ぼくの気持ちのように重かった。不意にAはぼくへ眼を向けてなにか言いたそうにじっと見た。だけれどAは死んでいる。
ひやりとした雨の夜、ぼくは最低の存在に成り下がったのだ。地獄へ。一歩一歩向かうぼくらを、みんな知らない。ありもしない神に懺悔するように目をつむる。
赦してください。
雨に流されて排水溝を汚していく彼女の血はもう生きてなんか無い。知ってるさ。なんども、なんどもなんどもなんどもなんども愛して殺して刺したから。だけどA、どうしてぼくの頭から出ていかないんですか？Aの笑顔が消えません。消せません。
愛という名の呪縛。
ぼくはあなたに愛されて痛かった。愛していたかった、から。
雨音はだんだんと弱くなって、残った雨粒がAの頬に残る。宝石のようなきらめきを放ちながら、命のない彼女を彩る。遠くに聞こえるエンジン音が嫌いだ。さみしい夜。無限に続くかと思っていたそれは、案外あっけなく終わりを迎えそうだ。憎いオレンジが、雨上がりの死とAをあたらしい色に染め上げてしまう。
とけるような陽のあたたかさがAを思い出させるから、ぼくは少し泣いて、彼女を刺し殺したそのナイフで喉を掻っ切った。
くらい、さむい、まぶしい。A、かなしい雲の向こうで、きっと愛してください。
こんどはぼくだけを。
ー
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タメィゴゥ - めちゃ面白かったです！ド好みです！ありがとうございました！ (2019年12月23日 18時) (
レス) id: 98d1675711 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - タメィゴゥさん» リクエストありがとうございます！そういうのめちゃ好きです！遅くなるかもしれませんがサマトキ了解しました！ (2019年12月4日 1時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
タメィゴゥ - すみませんリクエスト良いでしょうか？ もしよろしければ左馬刻様が夢主にでろでろに依存してしまい離れられないお話を書いていただけませんでしょうか？ リクエストがもはやキャラ崩壊ですがよろしければお願いします。<(_ _)> (2019年12月2日 19時) (レス) id: 78b2b55a96 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - 林檎麻さん» こちらこそありがとうございます！！！はらいくうこうくん、了解しました！ちょいムズですね…がんばります (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - いつも素晴らしいお話をありがとうございます…とっても好きです…愛してます…。リクエストでよかったら波羅夷空却くんをお願いしてもいいですかね…??応援してます…!! (2019年11月3日 2時) (レス) id: 5fe5e3438d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：43沿い | 作成日時：2018年8月31日 0時
