第5話【tyun side】 ページ5
雨が降る寒い日に、最低限の荷物だけ持って家を出た。
行く宛も考えずに、とりあえず誰にも見付からない場所に行きたくて、適当に買ったチケットを新幹線が来るまでぼーっと眺める。
理由を聞かれれば正直無い。一つ上げるなら、自分が嫌になった。
毎日楽しくて賑やかで何の不満もない筈なのに、そういう負の感情というものは気付かないうちに蓄積されるもんで、それがある日なんの前触れもなく唐突に爆発して全てが嫌になって、何も出来なくなった。
全てのことが手に付かなくなって、気付いたら此処に居た。
怒るだろうな。探してくれるかな。
移動中も、時間を潰している間も、ずっとあいつらの事を考えていて、自分はこんなにも面倒臭い奴だっけと、またそれで嫌になって。
きっと沢山の人に迷惑を掛ける事になるだろう。
こんな事をしてる自分を誰かに許して欲しくて、電話をしたら快くOKしてくれた先輩の家へ向かった。
『…すいません、急に』
はじめ「いやいや、わざわざいらっしゃい!一人って珍しいね」
『近くまで来たもんで』
はじめ「何する?動画撮る?」
『あー…いや、すいません。今日は一人だし、』
はじめ「んじゃあゲームしよ」
詳しく聞いてこない辺り、はじめさんの優しさなんだろうな。
ゲームをして、撮影のお手伝いもして一日を過ごし、今日ははじめハウスに泊まる事になった。
明日は何処へ行こう。もう少し、いや、もっと遠くへ行こう。
はじめ「ちゅん」
『はい?』
はじめ「あんま深い事は聞かないけどさ、何かあった?」
『いや、特に』
はじめ「本当に?」
『一人旅ですよ、ただの』
はじめ「なら良いんだけど、ちゅんの気が済むまで此処に居ても良いんだよ」
『それは…止めておきます。まだ行きたい所があるので』
はじめ「お土産宜しくな」
『もちろん』
俺の気を汲み取ったのか、シルク達には内緒にしておくとまで言ってくださった。
仲間なんだから迷惑ぐらい掛けてやれって。
怒られたら、はじめさんの名前を出してくれって。
荒んでいた心に痛い程優しさが染みてきて、少し涙が出た。
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作者名:憐 | 作成日時:2018年8月18日 1時