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混乱しながら放った言葉は、果たして何への返答だったのだろう。告白に対してなのか、それとも今までの理不尽な仕打ちに対してか。それは自分でも分からなかった。
唯一分かったのは、こんな不透明な言葉を放ってしまうほどに私は動揺しているという事。
唇を噛んで何かに耐えようとしている伏見に、私は声を掛け直した。
『私、今まで伏見の事苦手だった』
嫌い、と言わなかったのは、きっと彼が今にも泣きそうな表情をしていたから。
伏見の表情にチクリと胸が痛んで、伝えなくてはと私はまた言葉を紡ぐ。
『いつもニコニコしてて、何を考えてるか分からなかったから。..というか、笑顔の裏で何を思ってるのかが分からなくて、怖かったから』
そうだ。私は怖かったのだ。
プライドと意地によって歪められた本心に漸く出会えた気がして、少しだけ胸がスっとする。
『でも、今はもう怖くないよ。伏見がこんな表情してるの知っちゃったからね』
そう言って私は彼に対して初めて笑いかけた。今までの罪を償うように、彼の心を少しでも慰めようとするように。
「...そうか」
掠れた声で、伏見は小さく呟いた。
安堵とも喜びともとれるその表情は、罪を自覚した私の心を軽くする。
これからしようとしている事に、私は身勝手な話だよなと自嘲した。
『もし、さ。伏見が良かったら』
緊張で震える口角を何とか持ち上げて笑顔を作る。こんなの、きっと断られて当然の話だけど。
『私と、友達になってくれませんか』
伏見の息を飲む音が聞こえた。
琥珀色の双眸はすっかり虚構を削ぎ落として私を映し出す。其処に映っていた私は少しだけ揺らいでいた。
「いい、のか」
目を見開いて私を見つめたまま、伏見はそう小さく呟く。
まるでそれが人類で初めての言葉だとでも言う様に。まるでそれが、どうしようもなく嬉しい知らせだと言う様に。
『うん』
私は深く頷く。
ありがとう、と返ってきた言葉は震え声で紡がれていた。
『..私の前では、嘘付かないでね』
彼を嫌ったのも、傷付けたのも、全部自分なのに。
身勝手すぎると思うような言葉に、伏見は嬉しそうに頷いた。
初めて見るような笑顔だった。
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みそ漬けキュウリで殴る(プロフ) - 蒼空麗さん» お褒めの言葉ありがとうございます…!!こちらこそ読んでいただきありがとうございます!!そう思ってくださったのなら幸いです…泣 (2021年10月11日 15時) (レス) id: ed00509d09 (このIDを非表示/違反報告)
蒼空麗(プロフ) - 愛おしさしかないですありがとうございます (2021年10月6日 16時) (レス) @page26 id: ee676be244 (このIDを非表示/違反報告)
みそ漬けキュウリで殴る(プロフ) - 狛々さん» 読んでいただきありがとうございます!!本当ですか!?めっちゃ嬉しいです…泣考察要素もありますのでぜひぜひ考察していって頂ければと思います! (2021年10月6日 7時) (レス) id: ed00509d09 (このIDを非表示/違反報告)
狛々(プロフ) - 1話読み進めるごとに一番右の星押してました。この作品を読むだけで頭がよくなった気がします!!!! (2021年10月5日 22時) (レス) id: 0c572bf162 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みそ漬けキュウリで殴る | 作成日時:2021年10月5日 19時