第112話 ページ17
「臆病者。」
ーーーえ
拓磨...?
私は目を見開いて顔を上げた。
拓磨の顔を見ようと思ったが、彼は顔を私の肩に埋めているため、私からは見えなかった。
顔の見えない拓磨が、静かに震えている。
「はは...く...」
拓磨...?
何を考えてるの...?
「拓磨?」
私が名を呼ぶと、拓磨はピタっと震えを止め、私からゆっくりと離れた。
そしてだんだんと見えるようになったその顔には
...冷たい眼差ししか、残っていなかった。
怖い。
拓磨の顔が見えた瞬間、そう思った。
今まで見た事の無いような冷めた顔。
拓磨はしばらく私の顔を冷たい目で眺めた。
私は硬直するしかなかった。
拓磨は、少しだけ苦笑して言った。
「...春美。滑稽だね。滑稽だ。自分を正当化しようと必死じゃないか。」
ーーーなに
どうしたの
怖い
拓磨が怖い
その目はなに
その表情は
その頭の中は
何もわからない
私は目を見開いたまま、ただ拓磨の言葉を聞いていた。
何も言えない、言わせてくれない。
恐怖と驚きで硬直する私に、拓磨は再び言った。
「春美、君が隠そうとしている事実を代わりに僕が言ってあげよう。春美は逃げたんだよ。この世から消える勇気がなかったんだ。どんなことがあっても命は捨てちゃいけないなんて、ただの後付けだ。大体その理由じゃ、春美は凜を否定したことになるよ。春美が逃げていないのなら、凜は逃げたことになる。凜はしちゃいけないことをしたんだね?あくまでも、春美の取った選択肢が、正しかったんだね?」
拓磨は不敵な笑みを浮かべて、私を見下ろした。
その目に色なんか残ってない。
私に向ける感情なんか、ひとつもない...
私は、なかなか収まらない震えを必死に押さえつけながら、絞り出すように言った。
「わ...私と、凜は、状況が違う。認めたくないけど、凜が取った行動が正しいとも言えないけど、私は、凜が自ら消えたのは、しょうがなかったと思う。でもっ、でも。私は私で、この選択が、正しいと」
「嘘だね。また逃げてるよ。凜と春美の状況は変わらない。当事者かどうかなんて、今は関係ないじゃない。君らは正反対の選択をしてるんだよ。」
やめて
やめてやめてやめて
「っ...」
私は咄嗟に両手で耳を塞いだ。
聞きたくない。
私は間違ってない。
凜を否定してるわけでもない。
私は...
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
fruit(プロフ) - いちうさぎさん» いちうさぎ様!!また私に作品を作る機会を作って下さって本当にありがとうございました!私はまだ今作と前作しかありませんが...楽しんでいただけると嬉しいです!!本当にありがとうございます!!(告白は快くお受け致します) (2020年7月23日 0時) (
レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
いちうさぎ - fruitさん» はあ・・・好きです(唐突な告白)まじで面白かったです！他の作品も今から読ませていただきます！執筆、本当にお疲れ様でした！(((o(*ﾟ▽ﾟ*)o))) (2020年7月22日 19時) (レス) id: d12e33a79f (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 水の犬。さん» もちろんしっっっっっっっっっかり覚えさせて頂いております水の犬。様!!毎回毎回丁寧なコメント本当にありがとうございます...凄く嬉しいです!「こちらの作品が大好き」もうこれ以上ない嬉しいお言葉です...幸せをかみ締めております...ありがとうございます... (2020年7月20日 22時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、お久しぶりです。覚えていなかったらすみません。番外編も読んでいてすごくゾクゾクしました(いい意味です)！改めてこちらの作品が大好きだなと感じました。 (2020年7月20日 18時) (レス) id: 88a373f457 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - いちうさぎさん» お待たせいたしました!!!遅くなってしまって申し訳ありません...気に入っていただけるかはわかりませんが、読んでくださると嬉しいです!リクエストありがとうございました! (2020年7月20日 17時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：fruit | 作成日時：2019年8月13日 23時
