第9話 ページ10
連続する電子音。
特になにか思考する訳でもなく、私はただただ待っていた。
そろそろ留守番電話に繋がるかな。
そんなことを思っていると。
『...もしもし。山田です。』
「っ...!」
電話は繋がった。
驚いてしまい、一瞬戸惑った。
電話をかけたのはこちらなのに。
『...?あの、どちら様でしょうか。』
私は慌てて返答する。
「すみません。私、斎藤です。斎藤春美です。覚えてらっしゃいますか。凜さんと親しくさせて頂いた」
『春美ちゃんっ...そうよね、凜が大好きだった、春美ちゃーー』
凜のお母さんが、そこまで言って言葉を詰まらせた。
おそらく込み上げてきた涙を押し殺したのだろう。
...凜が大好き【だった】。
無意識に過去形にされたその表現は、私をきつく締め付けた。
もう受け入れたつもりだった。
凜のことはもう認めたって思っていた。
でも心のどこかでは、突然ひょっこり現れて、ごめんごめん、なんて言って帰ってくるんじゃないか。
そんなことを思っていた。
やっぱり受け入れられない。
受け入れたくない。
認められない。
認めたくない。
凜はこの世に、もういない...。
寂れた学校の隅っこで、私は必死に涙をこらえた。
「お辛い時期に、申し訳ありません。もう少し時間をあけようと思ったのですが、どうしてもお母様方とお話がしたくて、連絡致しました。」
『話したい、こと...?』
私はなんとか落ち着きを取り戻し、頭を切り替えた。
「はい。私は今、凜さんが命を捨てなければならなかった理由を探っています。とはいっても、まだ何も掴めていないのですが…。そこで、お母様方とお話がしたいと思ったのです。」
一つ一つ、はっきりと言った。
凜のお母さんは、息を呑むような音をさせた。
『理由を、探っている...。そう...。凜のために...。ありがとう。」』
「え...?」
ありがとう
まさかそんなこと言われるとは思っていなくて、咄嗟に言葉を返せなかった。
「え...あ、いえ、私が勝手にしていることです。」
慌ててそう言うと、凜のお母さんはいいえ、と言って続けた。
『春美ちゃんがそれを探ったことで、凜が生きていた証を得られるかもしれないでしょ。それに、春美ちゃんが本当に凜を大切に思ってくれてるってわかるから、嬉しいの。』
凜のお母さんは今、笑っている。
決してお世辞でないことぐらい、その声で容易く察することが出来た。
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fruit(プロフ) - 鳥の子さん» うわぁぁぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!そして読みに来てくださってありがとうございました!!自分の作品をこんなに好きって言って貰えるとすごい嬉しいのですね...いますごくテンション上がってます笑コメントもしてくださってありがとうございました!! (2020年1月26日 0時) (レス) id: dc8b637267 (このIDを非表示/違反報告)
鳥の子(プロフ) - 一通り読んで参りました……!好き……。余りにもLOVE過ぎて……。もう説明文の所から夢主ちゃんの覚悟が伝わってきて、けれど最終的には後悔してしまうのだろうな(覚悟ほしていたけれど)とか思っちゃうとLOVE……。更新頑張られてください!! (2020年1月18日 17時) (レス) id: fababa1230 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 凛奈さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!!!凛奈様のような読者様がいらっしゃるので頑張れるわたくしです。これからもどうぞよろしくお願い致します!! (2019年5月28日 17時) (レス) id: 479b2f8b1f (このIDを非表示/違反報告)
凛奈(プロフ) - 更新楽しみにしてます!すんごい面白いし、好きです!! (2019年5月28日 6時) (レス) id: 225bb681ca (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 花風雪 サブありさん» うわぁぁ嬉しいコメント!!!読んでくださって本当にありがとうございます!!!今はテスト前で少し更新をお休みしていますが、来週からまた再開します!まだまだ続きますよ〜!?これからもよろしくお願いいたします!!! (2019年5月26日 7時) (レス) id: 479b2f8b1f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:fruit | 作成日時:2019年3月4日 22時