知ってはならない。

第8話 ページ9

何日か経った。

拓磨には謝れずじまいだ。

あれから拓磨との会話はない。
また携帯を見ない日々が続く。



...凜を利用しないで。


拓磨にとっては、心外だったはずだ。
私のためを思ったのに

利用されたなんて言われて
怒らないわけがない。


いっそあの時怒鳴って欲しかった。

なんでそんな事言うの。
僕は春美のためを思って言ってるのに。


少しでもそう言ってくれたら、あの場で謝れたのに。



拓磨は優しく、残酷だった。
納得もしないまま、私の行動を黙認した。


いつか、仲直り出来る時はくるだろうか。


「はぁ...」

上を仰ぎながらため息をついた。



「お疲れのようだね。なんかあった?」

私のため息に気づくやいなや、川上君は言った。

「うん...ちょっと彼氏と喧嘩しちゃって。まあ喧嘩って言っても私がほぼ悪いんだけどね。」

私は苦笑いしながら言った。

わかってる。
私が悪いことはわかっている。

でも、何故か素直に謝ることができない。

事実を突きとめたいが故か
凜の隠されたものを知りたいが故か

拓磨は、凜と同じぐらい大切だ。

自身が持つ複雑な気持ちを、自分ではコントロールできなかった。

「そっか、喧嘩か...。俺は凜と喧嘩なんかしたことないからな。ごめん、アドバイスとかできなくて。」

川上君は、そう言って申し訳なさそうな顔をする。

凜が好きになるくらいだ。
彼もきっといいひとなのだろう。

私は、気にしなくていいよ、と一言言って席を立った。


騒がしい教室を後に、私はポケットから携帯を出した。
廊下を歩き、人目がない所を探す。



今日は凜の家に電話をしようと思っていた。


明後日は終業式。
そこからは夏休みがスタートする。

終業式がある日は午前中で学校が終わるため、よければ午後に家に伺おうと思ったのだ。

...拓磨に反対されたけど、やっぱり真実を知りたい。



生徒数が少ないため、容易に見つけた誰もいない場所で、連絡先を開いた。

凜の家に電話するなんていつぶりだろう。
私からの電話なんて相手にしてくれるのだろうか。


少しの緊張を抱きながら、慎重にその番号に触れた。


すぐに画面が切り替わり、接続中の文字が出る。
私は慌てて耳に携帯を押し当て、電話が繋がるのを待った。

もしこれで繋がらなかったら、拓磨の言うように凜が死んだ原因を探るのは諦めよう。


半信半疑で、プルルル...と無機質になる音をぼーっと聞いていた。

第9話→←第7話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す