知ってはならない。

第3話 ページ4

「いじめなんか聞いたことないし。私もわかんない。」

「俺は山田さんとは話してなかったしなぁ...。」

「そっか。ありがとう。」



どの人に聞いても、回答はほとんど同じ。


クラスが3つしかないこの高校では、同い年であればほぼ全員の顔と名前が一致する。

片っ端から、凜が悩みを持っていなかったか聞き回っているのだが...
想像通りとも言えようか、回答は「わからない」で一環されていた。

私はため息をついて川上君の席の前に座った。

「はぁぁ...。」

川上君は眉毛を下げて苦笑した。

「その様子だと、収穫なし、みたいだな。」

「誰に聞いてもわからないの一点張り。思った通り、凜は誰からも恨まれてないみたい。」

「まあ、あの性格してれば嫌われることもないよな。」


確かに、凜は誰にも分け隔てなく優しかった。

それは凜が中学生だった時から同じで、昔から誰にも好かれる人であったようだ。

だからますます謎が深まる...。

「もう、どこから情報を得ればいいんだろう。」

私がそう呟くと、ぽつ、と川上君が言った。

「...家族」

「え...?」

「家族。」

家族。

私にも、もちろんその考えはあった。

しかし、凜を愛していたのは家族も同じ。
17年間も育ててきた娘が理由もわからず突然いなくなったのだ。

悲しみが想像以上であることは容易にわかる。

いつか、ご両親に挨拶に行こうと思っていた。
しかしそれは今ではない。
まだ、整理がついてない。
まだ、はやい。

そう思って避けていた。

「...斎藤が言いたいことはわかるよ。」

私がしばらく黙っていると、川上君は言った。

「俺たちでさえまだ立ち直っていない。忘れられていない。それなのに、家族が立ち直っているわけがない。そんなことはわかってるよ。でも、原因を突き止めるためなら...。そうは思わないか?」


原因を突き止めるために
そのためなら
家族に話を聞きに行ってもいい



...決してそんなことは思わない。

思わないけど


だけど
一刻も早く理由を見つけ出したい。

「...そうだね。いずれ挨拶には行こうと思ってたし。早すぎることに間違いはないけど...今行くのも、ありなのかもしれない。」

まだ迷いを拭いきれない私の背中を押すように、彼は言った。

「斎藤、ありがとう。俺にはできないことをしてくれて。無理はしなくていい。でも、真実を探し出して欲しい。」

「うん。やってみる。」



とりあえずやってみよう。
できることから、一つ一つ。

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