第二幕 To be or not to be ページ47
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名こそ違えど、アルスノアはテイワット全土に伝承として記録されている。
特に璃月での彼の活躍は目覚ましい。
年に一度、幸福をもたらす瑞兆。
それがたとえアルスノアの力ではなくとも、幸運を掴み取った者たちは彼のおかげだとして崇める。
魔神戦争の時代、アルスノアは半神だった。
テイワット全土の人間たちに祀られ、人の願いによって半神へと昇華された魔物だった。
そして、現代。
人と関われば、伝説は事実に近くなる。
空想は現実へと塗り変わる。
だから、彼は半神へとより近付く。
「ウェンティ、……嘘だろう、な？」
彼は怯えた顔をした。
いきなり神になるのだと言われて怖いのは、よくわかる。精霊でも人間でもない己が、神になるなんて。
「……ごめん」
「……そう、か……」
「ごめん、ノア。もっと早く教えていればよかった」
彼はふるふると首を横に振り、息を吐いた。
その息でさえ震えていて、どれだけ怯えているかを物語っている。
今なら、まだ間に合う。
せめてこれだけは言っておかなければ。
言い遅れたことへの贖罪には足りないだろうけど。
「君は痛みを感じないだろう？ もし半神に戻り肉体を得れば、君はすぐに死ぬだろう」
痛覚とは、死なないためにある感覚だ。
アルスノアは殻が破壊されたくらいでは死なない。
無相の雷と同じで、プリズムを破壊して核を叩く必要がある。
故に、殻には痛覚がない。
「それに、これは最悪の場合だけど……」
ウェンティはライアーを胸に抱き、眉間を狭めた。
「全身が核になる、かもしれない」
「……つまり？」
「何にも触れられなくなる」
そんな、と言って彼は拳を握りしめる。
因果応報などということわざを思い出して、ウェンティも奥歯を噛みしめた。
吉兆として勝手に祀りあげられて、勝手に崇められ、あまつさえ神に押し上げる、なんて。
彼らは、なんて自分勝手なんだろう。
これが因果なんて、そんなこと。
「……ボクと行こう、ノア。風と共に生きよう」
彼の核は雷元素を纏う。
なら、全身が
あくまで最悪の事態の話であり、確率はわからない。でも『最悪』は想定しておくべきだ。
「君は目の前にある花を、愛でずにいられる？」
意地悪な質問だ。彼にそんなことはできない。
それでも、人と共に在りたいのなら。
賭けに出るか──死ぬしかないのだ。
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作成日時：2021年8月1日 1時
