第六幕 天使の取り分 ページ27
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この流れでかよぉ、とパイモンの叫びが風立ちの地に響いてからはや数分。
旅人とウェンティに案内され、黒陽はいよいよモンド城の正門をくぐった。
アカツキワイナリーに差し掛かったころから見えていた城だが、近くで見るとより荘厳に感じる。
圧巻、と言ってもいいように思われた。
「ソラ、あれは花屋だな？ あちらは……」
「キャッツテールっていう酒場だよ」
「ふむ……あ、待て、これは？ 水が……」
「噴水のことも忘れちゃったのかい？ 仕方ないなぁ」
黒陽は水を噴き出すオブジェを指して首を傾げた。ウェンティが旅人の代わりに名前を教えてくれる。
夜も更け、広場にはいい匂いが漂っていた。
「これは……肉の匂いか。活気があるな」
「オイラわかるぞ、これは……ニンジンとお肉のハニーソテーだーーーっ！」
その匂いのする方へ飛んでいくパイモン。どうやらモンド料理の中ではそれがお気に入りらしかった。
ふふ、と笑ってウェンティは腰に手を当てる。
「そんなにハニーソテーが食べたいなら、別行動にしないかい？ 旅人はお酒飲めないし、酒場にいても暇だろう」
「まあ……そうだね。黒陽がよければ」
もちろん、黒陽には断る理由がない。
モンド料理はいつでも食べられるが、酒は夜に飲むものらしいから、行くなら今がいいだろう。
頷けば、彼は嬉しそうに黒陽の手を引いた。
「それじゃあ行こう、ノア」
「ああ。ソラ、あとでな」
「風神像の前で待ってるぜー！」
旅人とパイモンと別れ、合成台の脇を通り、階段を下り、裏路地みたいなところに入る。
隅の建物の前で、ウェンティは足を止めた。
中から明かりとともに喧騒が漏れ聞こえてくる。
壁面に『エンジェルズシェア』とあるから、ここがくだんの酒場なのだ。ほんの少しの緊張感を持って、彼が扉を開けるのを待つ。
「やあ、オーナー。リンゴ酒と『午後の死』をひとつずつ、よろしく〜」
眩しい、と思った。そしてうるさい……いや、賑やかだ。変わった匂い、嗅いだことのない匂いが容赦なく鼻腔を突き刺してくる。
ウェンティはカウンターに立っている赤髪の青年にそう言って、彼の目の前の丸椅子に腰をかけた。
「座って」
「あ、ああ、うん」
隣席に腰をかければ、青年はウェンティを睨みつける。それから黒陽に視線を移した。
「君は酒に強いのか？」
「いや、酒は初めてだ」
「……ウェンティ。君は女の子に午後の死を飲ませてどうするつもりなんだ」
「誤解だ！ 冤罪だー！」
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作成日時：2021年8月1日 1時
