第二幕 穏やかな風の中で ページ23
.
窓から射す陽の光で目覚め、隣を見る。
黒陽と同じベッドで寝ていたパイモンはいるのに、彼本人の姿がない。
「黒陽……？」
寝ぼけ眼のままベッドを降り、彼を探す。
部屋の中にはいないようだった。
昨日夜更かししてモンドの冒険譚を聞かせていたので、俺は昼近い今まで眠っていたけど、黒陽はそんなことなかったみたいだ。
宿を出て辺りを探してみる。
風車の下にも、精霊の話をした泉のほとりにも姿は見えない。
昨夜はパイモンが初めに寝てしまって、俺もそのあとすぐ寝てしまったから、実は黒陽が寝るところを見ていなかった。
彼にとって睡眠は不可欠ではないのだし、一晩中起きていても不思議じゃない。
「あ」
見つけた。昨日彼が魚をとった泉のワープポイントに、背中を預けて眠っている。
大気がほんのり紫色を帯びていて、元素を摂っているのだと理解した。食事ばかりで、本当に必要な雷元素を食べていなかったからだ。
モンドの神像と共鳴していなくてよかった。
岩元素を反応させて結晶を纏い、彼に近寄る。
声をかけようか迷ったが、やめておいた。
どのくらい空腹だったのか知らないけれど、摂れるときに摂れるだけ溜めておくのがいいだろう。
彼の周りを飛ぶ晶蝶が紫色に変わっている。
稲妻の空気に似てきた気もする。不思議な感じ。
無相の雷と同じ、紫電を放つプリズムが三つ。
それに岩元素を付着させ、シールドを張り替える。
こんなに近くでまじまじと見るのは初めてだ。いつもなら、早く倒さなきゃって焦ってしまうし。
( ……綺麗だな )
互いに放電しあいながら、大気や大地に含まれる雷元素を吸収していくプリズムは、導光装置のパーツに似ている。
きらきら光って、黒陽の胸に雷を届けている。
「……ん、ソラか」
彼はうっすらと目を開けて、けぶる金の瞳で俺の顔を認めた。
「ソラぁ！？」
ばっと飛び起きる。するとプリズムたちは黒陽の胸の中に吸い込まれていき、辺りの雷元素濃度は正常に戻り、晶蝶の色もみるみるうちに水色へ変化した。
「どどどどうしてここに……そ、それより怪我は？ 大丈夫か？ どこか痛むところはないか？」
慌ててこちらの体を確認しようとする彼に、大丈夫だよと笑って返す。
「シールドあるでしょ」
「あ、ああ……そうだった」
ほ、と一息。
驚かせてしまったようで申し訳ない。
「パイモンは？」
「まだ寝てたけど、そろそろ起きてくると思う。お昼食べたら出発しよう」
「ああ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2021年8月1日 1時
