終 ページ37
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二万モラという大金を手に入れた黒陽は、意気揚々と解翠行に向かった。
「稲妻の紫水晶はあるか?」
「ああ、旅人さん……ですよね? 稲妻は鎖国中だって、さんざん聞きませんでした?」
話し方を戻し忘れていた。声もほんの少しだけ調整し、店主の石商と向き直る。
「そうだっ……け。残ってない?」
「残ってることは残ってますが……貴重な分、かなり値は張りますよ」
ふふん、とこっそり胸を張る。
なんたって今は二万モラという大金が──
「五万モラってところですね」
「ごまん」
終わった。
「……今回はやめておく、ごめん石商」
「わかりました。またご贔屓に」
とぼとぼと歩いて鍾離の元へ戻ると、彼はタルタリヤと何かを話しているようだった。
よく耳を澄ます。聴覚で聞くのではなく、体の感覚を拡張し、大気と一体になって音を感じ取る。
「──先生は知っていたのかい? 黒陽が人でも仙人でもないって?」
「当然だ。だからこそ、俺は『
どうやら自分の話らしい。
公子は顎に手を添え、考えるような素振りを見せて「ふうん?」と言った。
「それだけが理由じゃないように思えるんだけど」
「推測は勝手にするといい。それより、あまり無理に戦わせないでくれ。あれは人を殺してしまうことを極端に恐れている」
「俺はそんなに弱くないって言っておいてよ。たとえあの子が魔神の残滓だったとしても、俺が死ぬなんてありえない」
挑発的な笑みを浮かべ、こちらを認めては人好きのする顔で小さく手を振ってくる。
「……まあ。お前たちが背中を預けあえば、向かうところ敵なしだとは思うがな」
「俺も、相手を感電させるにはもってこいだと思うよ。まあ共闘するより、普通に戦いたいけどね」
感電させるには、確かにもってこいだ。
もともと感電反応を起こしたあと、水に溜まる雷元素は、雷の神の目を持っていても操作できない。
なので、水元素の付着した彼が近くにいる状態で力を使ったら……結果はご想像の通り。
黒陽自身には雷元素ダメージが通らないから、公子と戦うときの相性は完全にこちらが有利。
「おかえり。買わなかったのか」
「思ったより高かった。これじゃ加工代がなくなる」
ここ数日でかなり世話になったので、黒陽は旅人に贈り物をするつもりだったのである。
「……仕方ない。何か奢る」
黒陽は肩を落としたが、内心、またうまい料理が食べられると喜んでいた。
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作成日時:2021年7月16日 2時