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 すてきなマーシャ、でも他人 ページ29

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 ──私はこのヒトを知っている。

 黒陽は閃いた (パイモン曰く、「ピキーン」) 。
 旅人たちと話した夜、埠頭で電気水晶を買っていたときに借りた、あの顔だ。

 琉璃亭の辺りで見、それ以降は見かけなかったからもう璃月にはいないとばかり思っていた。


「そういえば、そのローブは初めて見るけど……スメールの商人から買った? それとも予定を変えて、先にスメールに行ってきたのかな?」


 彼はにこやかに言いながら黒陽のローブを眺める。なんと返しても悪手になりそうで、というか旅人の話し方が咄嗟に思い出せなくて、黒陽は焦った。

 ──これじゃあ、余計に怪しまれる!

 進路を塞がれているから逃げるには背を向けるしかないのだが、魔物としての本能か何かが背中を見せるなと訴えている。

 しかしそんなものに従っていられるほど余裕はない。黒陽は明るい髪の青年に背を向け、一目散に逃げ出した。


「逃げようとするなんてひどいじゃないか」


 ……訂正。逃げようとした。
 袖を掴まれて逃げられない。

 本当は腕を狙われたのだけど、こういう状況で何度も鍛えられた反射神経によって、手を引っ込めることができた。

 これで仮に元素エネルギーが底をついて体が保てなくなっても、電流は流れない……はず。


「逃げなくても、こんな街中でいきなり武器を抜いたりしないよ。知ってるだろ?」

「…………」

「だんまりか……俺、何か嫌われることしたかな?」


 腕の入っていない袖を執拗に握りしめているところを見るに、どうあっても逃がしてくれないらしい。

 黒陽は『目立つな』というお達しと、目の前の青年の爽やかな笑顔に板挟みにされて泣きそうだった。

 こうなったらもうローブを捨てるしかない。

 隠せないぶん体を精密に造る必要があるから、疲れるし負担もかかるけど、そんなこと言ってる場合じゃない。


「──あ。そうだ、会ったら聞こうと思ってたことがあるんだけどさ」


 留め金に伸ばしかけた指を引っ込め、フードの下から彼を見上げる。

 他人の手紙を覗くようで罪悪感があったが、青年が旅人に訊ねたいことがなんなのか興味があった。


「一昨日の夜、俺と相棒と鍾離先生が埠頭の露店で話してたらしいんだけど……俺はその時間、別の場所で仕事をしていた」


 おっと。ますます雲行きが怪しくなってきた。


「何か弁明はあるかな……『化瑞(カズイ)』様?」


 旅人のお叱りを覚悟した瞬間、青年は古めかしい名前を口にして、その顔から笑みを消した。

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作成日時:2021年7月16日 2時

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