第十幕 宿なし ページ23
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俺は黒陽に彼自身のことを相談した。
複体をやめるなら普段はどうするのか、街を離れるのか、ヒトを諦めるのか。
「諦めたくない。ここにいたい。
……君たちと、もっと触れ合いたい」
よかった、俺と方針は同じみたいだ。
「だったら、殻をどうにかしないとな。借りられそうなヤツらを探してみるか?」
彼曰く、無相シリーズが纏っている正方形のモノリスが黒陽の言う『殻』にあたるらしい。
目に見えないほど微細なモノリスを精密に組み上げ、人の形を再現しているそうだ。
果たしてそんなことが可能なのか、俺にはわからない。でも彼が今ここにいるなら、可能なんだろう。
とにかくコアは雷元素を帯びているので、素手で触ると雷元素が付着するどころかダメージを与えてしまう、ということである。
「俺が璃月にいないときは、俺の顔を使ってもいいけど……」
「人の反応が気になるなら、作ればいいだろう?」
先生が事もなげにそう言った。
まあ、正論なんだけど。
「できるの?」
「君たちが監修してくれるなら、できなくはない」
頷く黒陽。
なんだ、なら初めからそれでよかったんだ。
獣肉巻きを箸で刺して口に運んでいる彼は、「次会うときまでに考えておく」と言った。
「完成するまで、城内にいる予定だ」
次会うときまでに……次もまた会ってくれるってことだ。素直に嬉しかった。だって、昨日までは変によそよそしかったから。
「あれ? そしたら、宿がいるんじゃないのか?」
「不要だ。どこでも寝られる」
「逮捕されても知らないぞ……」
パイモンはやれやれ、と肩をすくめる。
逮捕されても逃走は瞬きくらい簡単だと思うけど、街に暮らしたいなら千岩軍との衝突は避けるべきだ。
本音は正直者だから捕まるだろう、といったところ。殻を纏っていようが関係ない。
「だが、宿もモラもない」
聞けば昨日の鉱石店で手持ちの全てを使ってしまったという。
普段は宝盗団を捕まえて報酬を得ているらしいが、毎日のように大量検挙するので警戒されてしまったそうだ。
今では遠目にでも見られたら逃げられるとか。
「北国銀行で借りるのはどうだ?」
「身分証明書がない」
「じゃあ……」
「往生堂で預かろう」
食後の茶を飲みながら、鍾離先生はそう言った。
「えっ」
でもそれだと、胡桃と鉢合わせるんじゃ?
彼女の言動はよくわからないところがある。人でなしの黒陽をどう見定めるのか、不安だ……
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作成日時:2021年7月16日 2時