第二幕 三者談合 ページ15
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夜。落ちた橋の残骸を跳び跳び、明蘊町に入る。
無相複体を探していると、視界の端で雷が閃いた。
「雷……複体か? 行ってみよう!」
先を行くパイモンを追いかけて坂を上る。
そこにはフードを被った無相複体と、大柄で斧を持ったヒルチャール。
複体の武器は長柄だ。斧の刃を綺麗に受け流すと、蹴りを繰り出す。魔物に体術は効果が薄いはず……なのに、腹を蹴られたヒルチャールはたじろいだ。
その隙に。
すっと手のひらを突き出すと、暴徒を取り囲むように剣や槍が現れる。それぞれがかなり高密度の雷元素を纏っていて、 隣の武器と放電しあい雷の壁を作っている。
やがて無相複体は拳を握る。全ての穂先が突き刺さり、ヒルチャールは膝を折った。すぐに武器たちは霧散して、あとには複体だけが残った。
ゆっくりとこちらを振り向き、ハスキーで穏やかな声で俺の名前を呼ぶ。
「ソラ」
その顔立ちは、鍾離先生にそっくりだった。
今日の
「複体さん。もしかして、待ってた?」
「いや、さっき着いたところだ」
「そっか。先生はまだ来てない?」
「彼ならもうすぐ戻ってくると思う。安全に話ができるよう、手分けしてヒルチャールの討伐を」
彼は坂道を登ったところの、夜泊石鉱床がある辺りを見上げた。確かに戦っている音がする。
「そうだったのか……」
「ごめん、手伝えなくて」
「謝る必要はない。約束には間に合っている」
彼は生真面目に首を振った。
やがて坂の上から先生が顔を出し、俺たちはそちらへ上がっていった。複体が、もう誰も住んでいない家屋の石垣に腰をかける。
「先に会ってるんなら、紹介はいらないか?」
「間違っていたら無礼だ。一応、頼む」
「真面目だな。彼は鍾離、往生堂の客卿だ! 璃月のことならなんでも知ってるから、分からないことがあったら──」
「いいや。俺は何も知らない」
先生は突然そう言って腕を組んだ。
珍しい。いつもなら強くは否定しないのに。
「しょ、鍾離?」
「どっちなんだ……?」
頑なに「何も知らない」「お前が知っていることしか知らない」と言い続ける先生は、何かを厭っているように見える。
「そ、そうだ! おまえの名前は? 聞いてなかったよな!」
機転をきかせたパイモンに心の中でグッジョブと叫ぶ。あんな先生見たことないし、もしかして無相複体のことが苦手なのかも?
複体は視線を逸らし、目を伏せる。
「覚えていない」
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作成日時:2021年7月16日 2時