第一章：帰離の嬰児 ページ13
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帰離原。塵の魔神と帝君の名から一文字ずつをとって名付けられたという、いまだ遺跡が残る地。学者と宝盗団を惹き付けてやまない、歴史と神秘の漂う場所。
人が『無相複体』『カズイ様』と呼ぶモノは、整備された道を北へ歩いていた。
鉱石の入った布袋を担ぎ直し、かつての遺跡を興味深げに横目で見やる。中で宝盗団がたむろしているから、入ってはいけない。
なぜなら。
彼は、ヒトが自分より弱いと知っている。
特に神の目を持たない者は自分への対抗手段を持たない。神の目を持つ者でも、元素によっては持たない者よりタチが悪い。
だからヒトは脆いものだ、と、彼は知っている。
しかし時に彼の感情は、自分にも制御できなくなるものだ。これが元素力の影響なのか自分本来の性質なのかは、彼にはあずかり知らぬことであった。
宝盗団がなんのために遺跡を漁るのか。
『無相複体』は知りたいと思った。
ので、殻を纏う。一度カラダを分解し、再び構築して、ローブを羽織る。
腰まで伸びた焦げ茶の髪は美しく、毛先が黄みを帯びていた。抑えめの岩色で纏められた服装は上品さを強調させている。
きっと異邦の旅人が見れば、先生だと言うだろう。これは今でもたまに使っている女の顔だった。誰をモデルにしたのかもう忘れてしまっていたが、さっきの男──鍾離──に似ている気もするし、やはり彼を元に造り上げた殻なのだろうか？
まあいい、と『無相複体』は思う。
今はこの欲を満たしたい。
「少し訊ねたいのだが……」
入口の近くにいた男に声をかける。
ほかの仲間は眠っているようで、寝転がったまま動かない。この姿は背が高い。であれば、向こうも勝ち目がないと分かってくれるだろう。
「こんな夜中にどうした、迷ったのか？」
見張りの男は武器の代わりに言葉を放った。
「いいや。ただ、君たちがどうして宝盗団にいるのか教えてほしいんだ。なぜ遺跡を漁り、宝を盗む？」
「あ？ てめえ……」
「待て、誤解しないでくれ。君たちを蔑む意図はない。だが璃月では窃盗も遺跡荒らしも罪だと聞いた。ならばなぜ、君たちは……」
言い終わる前に、斥候は脚を振り抜いた。
回し蹴りは『無相複体』の顔に直撃。常人なら軽く吹き飛んでいるはずだが、まだ立っている。
「なっ……！」
「……すまない、怒らせたようだ。私は去る、君も私のことは忘れてくれ」
眉を下げ、背を向ける。
斥候はナイフを投げたがその体には刺さらず、硬い音を立てて地に落ちるだけだった。
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作成日時：2021年7月16日 2時
