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序章:世界任務/無相複体 ページ1

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「はぁ……あ、旅人。ちょうどよかったわ、頼みがあるんだけど」


 子どもは寝る時間。冒険者協会にデイリー報酬を受け取りに来たら、嵐姉さんに呼び止められた。


「なんだよ……あっ、また宝の地図か? いいぞ、調べてきてやる!」


 隣で勝手に舞い上がるパイモンに彼女は溜め息を吐き、やれやれ、と肩をすくめる。嵐姉さんがそう何枚も宝の地図を持っているはずないと思う。


「違うわよ。最近起こったおかしなことについて、調べてほしくて」

「ん? でも、そういうのは総務司の仕事だろ? なんで冒険者協会に依頼が来るんだ?」

「知らないわ。とにかく来るの。……うちにふさわしくないと思わない?」

「あはは……」


 愛想笑いしかできない。猫探しだって犬探しだって、大切な家族がいなくなってるんだから、俺にとっては重要な依頼だ。


「それで、その『おかしなこと』って?」


 話を本題に戻すと、そう言って首を傾げる。
 璃月支部のトップである嵐姉さんが言うのだから、それはもう本当に、おかしなことなんだろう。


「ああ……璃月ではね、海灯祭でもう一人の自分を見ると、幸運が訪れると信じられているんだけど……」


 彼女が言うには、海灯祭でもう一人の自分──つまり、ドッペルゲンガーってことだろう──を見ると、死ではなく幸運が舞い込むのだとか。

 見た本人だけでなくその家族や友人にまでささやかながら御利益は及び、果ては璃月港が向こう一年間は平穏に暮らせるお告げである、とも言われているらしい。


「知ってるぞ! 『無相複体』ってやつだろ?」


 やっぱりパイモンは物知りだ。ぴょこぴょこ気持ちよさそうに宙を飛びながら、ずびしと指をさした。


「ええ、璃月の人は『化瑞(かずい)様』と呼ぶわ。毎年本祭の夜にだけ現れるのに、ここ一週間、毎日現れてるの。一周まわって凶兆なんじゃないかって、みんな噂してる」

「凶兆かぁ……」


 めでたいことばかり続くとかえって怖くなるのが、人間のさがだ。

 璃月の人たちが怯えているなら、なんとかした方がいいに決まってる。


「気になるね。うん、俺たちで調査してみるよ」

「ありがとう、じゃあ頼んだわよ。最近だと、目撃されたのは昨日の昼間ね……」

「海灯祭の夜にしか出てこなかったのにか?」


 おお、パイモン、いいところを突く。


「そうよ。でも昼間に目撃されたのは昨日が初めてで……もっと詳しい話を聞いていく? と言っても、あまり情報は多くないけど」

「もちろん! た〜っぷり、聞かせてくれ!」

 第一幕 証言→



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作成日時:2021年7月16日 2時

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