「よかった、本当に……」 ページ9
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俺たちは、暇を見つけてはナヒーダに会いに行っている。
彼女がスメールの神として行う責務の重さと、完璧な指導者でいなければという重圧を、少しでも和らげてあげたかった。
ついでに、今日は聞いてみたいこともある。
一ヶ月くらい前、森林書の任務を進めているときに、アランムフクンダが言っていた『ナラアナンタ』───もとい、堕ちた巨星『イティアメネウ』について。
マハールッカデヴァータは世界樹から削除された。
彼女の記憶は今、ナヒーダに受け継がれているはず。
「おはよう、ナヒーダ！ 元気か？」
「ええ、元気よ。ありがとう」
スラサタンナ聖処は静かだ。
俺たちは少し世間話をして、本題に入ろうと口を開いた。
「聞きたいことがあって」
「妹さんのこと？」
「それは前に教えてもらっただろ？ 今日は、ティアについて聞きたいんだ。な、空」
「うん。イティアメネウについて、教えてほしい」
ナヒーダはかすかに目を見開いて、気の抜けた顔で笑う。
「あなたたち、彼を知っているのね」
「アランムフクンダが、イティアメネウは千樹の王とワルカの王の
「それに、サルバと共にあるから不滅だって。ティアは、長く生きているひとなの？」
わずかな沈黙のあと、彼女の深緑の瞳が俺たちを見上げた。
そして、花のような唇がひらかれる───
「ナヒーダ！」
勢いよく扉を開けたのは、息を切らした学生服の青年。
今しがた話題に上っていた、イティアメネウその人だった。
彼は愕然とナヒーダを見る。
そして早足でこちらにやってきて、膝をつき、彼女を抱きしめた。震える声で、何度も名前を呼ぶ。
「ナヒーダ、よかった、本当に……ナヒーダ……」
泣いているところなんて、初めて見た。
けど、感情表現の激しい彼が涙を流すことも、道理なのかもしれない。だって、ティアにとってナヒーダは、単なる神ではないのだろうから。
彼は熱っぽく吐息し、ナヒーダを抱く腕に力をこめた。
「ティア、嬉しいけれど、痛いわ」
「あっ。ご、ごめん」
慌てて両手を離す。それから目元を拭って、俺たちのほうに向き直った。
「旅人、パイモン。ナヒーダを救ってくれて、本当にありがとう。ずっと諦めて、救神計画のときも国外にいたおれが言うのも、おかしな話だけど……」
「か、顔を上げてくれ！」
「俺たちは、正しいことをしただけ」
頭を上げた彼は、泣きそうな顔で笑っていた。
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
