「ちゃんと、気を付けて」 ページ8
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……確かに、セノにもアルハイゼンにも、手紙を返してなかったな。
たっぷり説教を終えたティナリは、私がいなかったあいだに起こった、スメールを揺るがす大事件のことを教えてくれた。
執行官第二位『博士』は、新たな神を創ろうとしていた。
その企みをナヒーダと旅人が止め、教令院上層部、つまり賢者は軒並み失脚。
「詳しいことは、旅人に聞くといいよ。もう少しこの国にいるって言ってたから」
「わかった」
それから彼は、傷が見たいと言って私を家に上げた。
三週間も前の傷なんて完治している。見せるくらい容易い。
私が服をめくって傷跡を見せると、ティナリは怪訝そうに眉をひそめた。何がそんなに気になって……あ、打撲か？
「また無茶したの？」
「いや、これはファデュイにやられて……」
「ファデュイ？ なんでまた」
私は彼に事の経緯をざっくり説明した。
稲妻でファデュイに攫われ、『博士』の元で尋問を受けたこと。彼らに連れ去られるときに抵抗した証が、この打撲痕であること。海に沈められたことも。
「海に沈められたって……肺炎は起こしてない？ 熱は？ 痰はどのくらい出る？ 眠気がひどかったりしない？」
ティナリの矢継ぎ早な問診に、言葉に詰まる。
確かに海に沈められて溺れたけど、後遺症が残るほどひどくなかったはずだ。すぐに早柚たち『終末番』が救い出してくれたおかげかな。
そのことを伝えると、彼は手袋を外し、私の額に触れた。
「熱は……ないみたいだね、よかった」
「平気だって。痰も出ないし、健康そのものだ」
「ハァ……あのね。偶然無事に済んだだけで、いつもこうだとは限らないんだよ。ちゃんと、気を付けて」
「ごめん……」
心底からの心配に、少しだけ申し訳なくなる。
確かにティナリの言うことにも一理あって、今回は偶然、命があるだけなのだろう。一歩違えば死んでいたかもしれない。だけど、私はこの生き方を変えられそうもなかった。
「そういえば、教令院の人事課が君を捜しに来たよ」
「えっ」ついに追放か？
「旅人に聞いてくれって追い返したけど、君を賢者に推したいとか言ってたな。ほら、君のところの賢者、失脚しただろ」
「は？」
追放ならまだわかる。けど、賢者って。なんで私が？ 賢者とは一番程遠いところにいるのに？
「まあ、とにかく旅人に会っておいで。それで全部わかるはずだからさ」
そして私は三週間前と同じように、オイルの香りがするベッドで眠りについた。ありがとうティナリ。
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
