「ただいま」 ページ7
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日暮れの中、層岩巨淵を抜けてガンダルヴァー村近くの神像を通りかかると、見慣れた影が神像を掃除していた。
「あっ、先生！」
人影は私の姿を認め、止めた手をこちらに振ってくれた。
「コレイ、久しぶり」
私の目の前に降り立った彼女は、スメールの飛行チャンピオンだ。本業はガンダルヴァー村のレンジャー見習いで、名前はコレイ。『博士』に人体実験をされていた少女。
セノの手でティナリの元に預けられた彼女に、知識を与えたのは私である。生論派のティナリではカバーしきれない分野とか、忙しい彼の代わりにとか。
そういった縁があって、彼女は私を『先生』と、ティナリを『師匠』と呼び分けていた。
「今帰ってきたところか？ 長い散歩だったな！」
「散歩？ ティナリがそう言ってたのか？」
「うん。師匠はすぐ戻るだろうって言ってたけど……なかなか帰ってこないから、師匠もあたしも心配してたんだ」
確かに散歩と称して二泊ぐらいならすることがあるけど、さすがに三週間は散歩の域を超えている。
ガンダルヴァー村に戻るというコレイと、行動を共にすることにした。村まではすぐだ。護衛というわけでもないが、久しぶりに会った彼女と話したかった。
「璃月にいたんだろ？ どうだった？」
「すごく優しいひとに会って、居候させてもらってたんだ」
「えぇっ？ あ、危なくないのか？」
「コレイは知らない男の家に居候する、なんて真似しちゃだめだよ」
しないよ！ と慌てた様子で手を振る彼女に頬をゆるめ、見えてきたティナリの家に懐かしささえ覚える。
鍾離は、たぶん私が『イティアメネウ』だから、家に泊めてくれたのだと思う。
最初の『イティアメネウ』と私の容姿は異なっているはずだから、きっと名前を聞いたときに、泊めてやろうと決めたのだろう。ちょっとだけ、複雑だ。
「師匠、ただいま！」
「ただいま、ティナリ」
村に入れば、すぐにティナリの大きな耳が見えた。
コレイと手を振りながら近付いていく。
彼は私と目が合うや否や駆け寄ってきて、私の肩をガッと掴んだ。痛い。手に力が入りすぎだ。
「ッ、君は、セノにも僕にも、連絡も寄越さないで！ 僕たちがどれだけ心配したと思って……！」
ぐわんぐわんと揺さぶられてちょっと酔った。
かと思えば、大きく溜め息をついて肩を落とす。
「ハァ、とにかく無事でよかった……僕が君を見逃したのは、すぐに戻ってくると思ったからだ。三週間もいなくなるなんて、考えてもなかった……」
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
