「たとえ何があろうと」 ページ6
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「その様子だと、明かすまでもなく勘づいていたようだな」
困ったように笑う鍾離に、私も笑いかける。
「薄々ね。でも、どうして明かしてくれたの？」
岩王帝君は俗世を去り、璃月の統治は人へ引き継がれた。
ならば、自分がモラクスであると明かすメリットも、もうないはず。それなのになぜ、彼は私に正体を匂わせたのか。
「おれが『イティアメネウ』だから？」
鍾離は目を伏せ、しばらく押し黙った。図星か、それとも。
「それもあるが……お前を、信じているからだ。みだりに俺のことを吹聴せず、心のうちに秘めておいてくれるとな」
「あ、ああ……そう……」
直球の褒め言葉になんだか照れくさくなって、声が裏返る。
信用されていることは、素直に嬉しかった。
私が『イティアメネウ』であるからではなく、一人の人間として、信じると言ってくれたことが。
「稲妻で、雷神はお前に何か言わなかったか？ 彼女も、一番最初の『イティアメネウ』と酒を酌み交わした仲だ」
雷神こと雷電影は、私を筆名である『紅涙』で呼んだ。
だから、『イティアメネウ』としての言葉など、何も───いや。言葉以前に、不可解な点がある。
そもそもどうして、彼女は私のような一介の観光客に、謁見することを許したのか。
いくら神子の口添えがあったとしても、新刊の挿絵のために雷電将軍をスケッチしたいからといって、そう簡単に会えるような人物ではない。
しかも、雷電将軍ではなく雷電影が、私に会ってくれた。
旅人の友人だからというだけで、簡単に一心浄土から出てきてくれるものだろうか？
それらすべては、私が『イティアメネウ』の名を持つ者であり、神子がそのことを将軍に伝えたと仮定すれば筋が通る。
二千年前に酒を交わした友と同じ名を継ぐ私と、会ってみたいと思ってくれたのだとしたら。
だから、あんなに優しくしてくれたのかな。
「言葉では、何も。けど、知ってたとは思う……すごく優しいひとだった」
「そうか。もし機会があれば、改めて訪ねてみるといい」
それから、彼は立ち上がって店を出た。支払いを済ませて後に続く。
「イティアメネウは俺の友人だ。昔の彼も、今のお前も」
「ああ」
「だから、いつでも頼ってくれ。凡人の俺にできることであれば、尽力する。たとえ何があろうと、俺たちは友だ」
熱烈な言葉に少し面食らうが、彼の言葉は優しいものだ。
「不安なら、契約しよう」
「そ、そこまではいいよ。ありがとう、鍾離。またな」
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
