「教えてほしいことがあって」 ページ5
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香菱の料理に舌鼓を打ち、食事もひと段落ついたところで、私は包みを二つ取り出した。
「これ、お土産。こっちはタルタリヤに」
中には稲妻の特産、鳴草で作られた栞が入っている。
鳴草の花のような大きな葉を押し花にして作られたもので、彼らが本を読むか分からなかったけど、私が貰って嬉しいものを選んだ。ちょっと独善的だったかも。
鍾離は包みを受け取って、頬を緩める。
「ありがとう。公子には俺から渡しておこう」
中身を見もせずありがとうと言われるのは、面映ゆいところがある。確かに、人から贈り物を貰ったときは、それだけで充分嬉しいものだ。
「急いでいるのだろう？ 旅人から話は聞いている。早く会いに行ってやるといい」
彼は湯呑みに口をつけて言った。
確かにナヒーダには早く会いたいけど、その前に、聞きたいことがある。
「鍾離先生」
「どうした、改まって」
私の真剣さを読み取ってか、彼は湯呑みを置く。
「その……教えてほしいことがあって」
「俺に答えられることであれば、なんでも」
「イティアメネウという名前は、継承されたものなのか？」
鍾離はわずかに目を見開いた。
……つまり、『イティアメネウ』は受け継がれている。
「それを、どこで？」
「『博士』がそう言ったんだ。おれは何代目かと」
「……ふむ」
もし私の名が兄の手で考えられたものではなかったとしたら、『博士』が由来を気にした理由にも納得がいく。
おかえりと言ったのは、きっと何代か前の『イティアメネウ』が、博士に捕まっていたからだろう。
「最初の『イティアメネウ』は、魔神ブエルの
魔神戦争の終結ということは、少なく見積もっても二千年は昔の話だ。そんなに長いあいだ、この名は継がれてきたのか。
「その後の記録は残っていない。だから、『イティアメネウ』が何度代替わりしたのか、俺は知らない。これ以上の話が知りたいのなら、彼女に直接聞くといい」
力になれずすまない、と彼は言って、冷めかけた茶に手をつけた。私にとっては今の情報だけで充分に価値がある。
それに、収穫もあった。
因論派を修めた私は、一通りの歴史は知っているつもりでいる。その私が知らない歴史があるとすれば───
「ありがとう、モラクス」
それは。彼こそが、
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
