琉金の線香花火 ページ29
.
それからたくさんの話をした。
全てを見てきた彼の語り口は講談師にも負けず劣らずといった具合で、特に旅人が解決した渦の魔神オセルとの戦いには、思わず聞き入ってしまうほどだった。
「岩王帝君が死んだとは聞いていたけど……そうだったんだ。先生、重い決断だっただろ？ お疲れさま」
「……ああ。ありがとう、ティア」
彼はどこか寂しげに、けど嬉しそうに、微笑む。
岩王帝君が決めたことであれば、その決定に間違いはない。契約による平等を第一義に挙げるのが彼だ。交わし重ねてきた契約は、彼の璃月への愛を示す証左となる。
モラクスは自らが建てた国を愛している。
ならば、その決定に誤りはない。
「夜になっちゃったな……花火、どこでやろっか」
「天衡山のほうはどうだ。平原だし、人通りも多くない」
「いいね。そこにしよう。タルタリヤの居場所はわかる？」
「公子を呼ぶのか？」
線香花火は大勢でやったほうが楽しい。宵宮のアドバイスに従って、私は三人目の参加者を探しに北国銀行へ向かうことにした。もちろん万民堂の食事代は、往生堂へのツケだった。
◇
緋雲の丘の階段をのぼり、北国銀行の中へ入る。とりあえず受付にいる女性に声をかけてみよう。
「こんばんは。執行官のタルタリヤを捜してるんだが、居所を教えてくれないか？」
「公子様に御用でしたら、こちらで承ります」
彼女はツンとした様子で言った。確かに、誰とも知れない輩を簡単に上官と会わせるわけにはいかないもんな。
「おれは彼の友人だ。ティアが来てるって伝えてくれよ」
……なんか、これ嫌な客みたいだな。
諦めて帰るか。二人でも、まあできるだろ。
「あれ、ティア？ どうしたんだい？」
しかし、踵を返そうとしたところで、階段からタルタリヤが降りてきた。これは僥倖。
「暇かい？ 鍾離と花火をやるんだが、君もどうかと思ってね」
「花火？ いいね、ちょうど仕事が終わったところなんだ」
彼はにっと笑い、受付のひとに手を挙げて「そういうことだから、俺はもう帰るよ」と言った。
そうして北国銀行を後にし、天衡山へ向かう。
鍾離はずっと立って待っていたようで、こちらを認めると、わずかに安堵した表情を見せた。心配をかけていたのかな。
「お待たせ、鍾離さん」
「待ってはいない」
「こんな夜中に大人の男が三人で花火なんて、通りがかる人は何事かと思うだろうね」
愉快そうなタルタリヤに同意して、私はみんなの線香花火に火をつけた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 170人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
