家路 ページ27
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久々に、旧友と酒を交わした。
友と呼べるひとは多くが境界を越え、向こう側に行った。
仙人たちは友ではあるが、凡人として生きることを選んだ以上、自然と縁は細くなる。魈や甘雨も同様だし、他の七神も、みな自国の問題で手一杯だろう。
となれば、鍾離として会えるのは、鍾離として出会ったひとだけ。そしてそれは、ごく限られた人間であった。
タルタリヤや胡堂主、旅人がこれに含まれる。さらに、いま目の前で泥酔しているイティアメネウもそうだった。
加えて彼は数少ない、『凡人』鍾離と『岩神』鍾離のどちらをも知っている人間である。
「ティア」
「んんぅ……」
彼は机に突っ伏し、意味を持たない呻き声をあげる。
はあ、と溜め息を吐いて、鍾離はこの酔っ払いをどうすべきか考える。まあ、ここは連れて帰ってやるのがいいだろう。以前も宿として鍾離の家を使っていたのだから、忌避感などないはずだ。
「しょーり、せんせぇ……おれ、はなびもってきたんだ……」
「花火？」
「んへへ」
鍾離が聞き返すと、彼は情けない声で笑った。
「せんこーはなび……よいみやがぁ、だれかとやるとたのしいって……」
やろ、と言ってへにゃりと破顔する。
だがこの体たらくでは、集中力が必要な線香花火などできはしないだろう。すぐに落としてしまうのがオチだ。
鍾離は花火が入っているだろう彼の鞄を見て、肩を竦める。花火を持ってきても、本人が酔っていては意味がない。
「また明日にしよう。今日は、もう休んだほうがいい」
「ん〜、まだのめる！」
「飲みすぎだ」
彼が飲んだのは、彼が普段飲んでいる冷浸蛇酒よりも度数の高い酒だ。それなのにぐびぐび飲んでしまったから、十四杯でつぶれている。ワインやビールであれば倍飲めるだろう。
「せんせぇ〜、はなび……やったことある？」
「何度か、ある」
「きれいだよねぇ」
「そうだな」
鍾離はきちんと相槌を打ちながら、会計───といっても、往生堂につけてもらうだけだが───を済ませる。
席を立ち、彼がかけたままの眼鏡を取る。運んでいるときに落としたりしたら割れてしまう。
それから鍾離は、手馴れた様子でティアを背負った。怪我人を背負うようなものだ、戦場で何度か行なってきた。ただし、彼は怪我人ではないから、体に障る可能性は考えなくていい。
彼も歩く意志はあるようで、半ば鍾離に引きずられる形ながらも足は動かしている。
その重さでさえ慈しみながら、鍾離は家路についた。
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
