出立 ページ25
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記憶を取り戻した私には、やることがあった。
───会いに、行かなければ。
記憶のない私を尊重して、何も言わなかったモラクスに。
記憶のない私を、優しく見守ってくれたバアルゼブルに。
「だからまた、旅行に出るのか？」
「うん。おれは賢者にもグランドキュレーターにもなる気はないし、書記官にも戻らないって、人事課に言ったから」
「そうか」
アルハイゼンは興味なさそうに腕を組み、私の向こうの景色を見る。そっちから聞いておいて、興味なさげにするなよな。
「君は、いつも忙しくしているな」
「きみほどじゃない」
私が肩をすくめると、彼は何かを考えるように黙った。
整った顔立ちのまま押し黙られると、少し怖い。
「なんだよ」
「……君がいなくなると、アビディアの森のレンジャー長や、大マハマトラが心配するだろうと思っただけだ」
「ティナリと、セノが？」
そんなに心配性だっただろうか。
……いや、あのふたりは私のことをかなり大切に思ってくれている。学者としても、友人としても。
だから三週間も連絡をしていなかったあのとき、ティナリはあんなに怒ったのだ。
セノは、この前酔いつぶれたときにしか会っていないけど、何も怒らなかった。咎めもされなかったから、そこまで心配するような男じゃないと思う。
「俺には関係のないことだが」
「ふんっ、きみも実は寂しかったりするんじゃないのか？」
「ふむ。意識混濁がみられるな」
「こいつ……！」
馬鹿にしやがって！
私は憤慨したが、アルハイゼンを相手にしても暖簾に腕押しであることは既に嫌というほど理解していた。
溜め息ひとつで怒りを霧散させる。
「もういいよ。おれは行くから」
「大人になりましたね、先輩」
「嫌味か？ その手には乗らないからな」
私は鼻を鳴らしてアルハイゼンに背を向け、トレジャーストリートを歩き出した。
日も高くなってきて、人々は活気づいて街を歩いている。
今からスメールを出れば、夜には璃月港に入れるだろう。
すると、向こうからセノが歩いてくるのが見えた。誰かを探すように辺りを見回している。
「セノ？」
彼はこちらを認めるや否や、駆け寄ってきて微笑した。
「おはよう。散歩か？」
「おはようセノ。これから璃月に行くんだ」
同じように微笑みながら答えると、彼は頷く。
「なら、出発する前に一局対戦しないか」
「かまわない。きみは本当に七聖召喚が好きだな。初めて教えた者として、鼻が高いよ」
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
