−任務完了− ページ24
.
アアル村で少し過ごしたあと、シティに戻ってきて、俺たちはスラサタンナ聖処に赴いた。
全ての記憶を取り戻したティアは、ナヒーダに礼を言いたいとのことだった。二千年前に
それはナヒーダではなく、マハールッカデヴァータの功績に違いなかった。……だが、彼女の記録は世界樹から削除され、功罪はすべてマハークサナリ、すなわちナヒーダのものになっている。
彼女を世界樹から消さなければ、世界は滅んでいただろう。しかし、こういったところで彼女の痕跡を垣間見てしまうと、俺は彼女の全てが消えたことを悲しく思ってしまうのだった。
「ナヒーダ、ごめん。遅くなったけど、ぜんぶ思い出したよ」
彼は眉尻を下げて困ったように笑った。
「きみがおれを止めたのは、おれが死なないようにだった……厳しい言葉も行動も、すべて、おれが死なないように、きみを忘れてしまわないようにだった」
事の一部始終は、ティアから聞いている。
何百回と再生を繰り返しても、彼はナヒーダと出会い、彼女を助けようとした───文字通り、その命をかけて。
それを嫌がったナヒーダは、彼に干渉しない道を選ぶことにした。大切なティアがどれだけ苦しんでいても、見て見ぬふりを……しようとした。
でも、できなかった。
だから彼女は彼を必死で説得し、彼は彼女を忘れて生きた。
そのしがらみも、今はもうない。
ナヒーダは黙ってティアの言葉を聞くと、花がひらくような微笑みを浮かべる。
「
「いいんだ。きっと混乱してしまったと思うし」
照れたように頬をかくティアに、彼女は両手を広げる。
彼はちらと俺たちを見た。見られてると恥ずかしいのかな。大丈夫だよ、と微笑んでみせると膝をつき、そっとナヒーダの腕の中におさまる。
おそるおそる背中に回された手は、少し震えていた。
抱きしめあう二人は親子のようでも、恋人のようでもある。
記憶を失っていた大切な人……たとえば自分で言うところの妹が、長く忘れていた自分のことを、思い出したら。
きっと、言葉では言い表せないほど嬉しくなるだろう。
「おかえりなさい。
「……ただいま、おれの月。ボクだけの若葉」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 170人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
