あなたが何を忘れても ページ22
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『……君、名前は？』
この少年はまずい。なぜ円環と輪廻に興味を持っているかは知らないが、関わってはならないと本能が叫んでいる。
『ザンディク』
彼は端的にそう答え、返答を急かすように男の双眸を見つめた。真っ赤な瞳は真剣そうで、思わず男は目を逸らす。
『ザンディク。君の結論は根本的に間違っている。ボクは円環者ではなく、生を繰り返しもしない』
赤砂の大地に視線を落としながら言うと、少年は眉間を狭めてしばらく押し黙った。
まるで永遠にも思える静寂のあと、少年が溜め息を吐く。
『……お前に話す意志がないことはわかった。本来ならなんとしても聞き出すべきところだが、こんな辺鄙な土地では道具も機材も足りない。だが次も見逃すつもりはない。覚えておけ』
少年は捨て台詞のように言って、アアル村を去った。
それから少年が告げ口したのか、アアル村に追っ手が来た。男は荷物を纏めてガーディアンの手引きで逃げ出したが、教令院のマハマトラは優秀だった。
そして、また収監された。
そういうときには、囚人のような環境から抜け出すために、自ら死を選ぶこともあった。
執行官に捕まり、非人道的な実験を受けることもあった。
何度男が囚われても、草神はアーカーシャを通じて慰めた。他の民にするように、優しい言葉を投げかけた。
草神との記憶などないのに、何度でも草神を救おうとする。
『どうして、あなたは見ず知らずの私を助けようとするの』
あるとき草神はそう尋ねた。
男は笑った。
『友達を助けるのに、理由が必要かい？』
やがて、草の神は男に干渉しなくなった。
何度でも己を助けようと決意し、その果てに死ぬ男を哀れに思ったからだった。
『これ以上、
草神は、男を失うことに慣れることができなかった。
いつもそばにいた。千樹の王の記憶は失くしても、赤砂の記憶を失くしても、彼女たちはずっと友人だった。
だから、もう失いたくない。
草神にとっては自分の知らぬところでも、男が生きてさえいてくれるならそれでよかったのだ。
けれど。
何百回目の再生で、八歳の男が拾ってくれた義兄を殺して、幽閉されたとき。
草神はアーカーシャ端末を通じて、彼を慰めてしまった。
食事もとらず毎日のように泣き暮れている男を、見ていられなかったのである。
『私はナヒーダ。泣かないで、私の愛しい子。あなたが何を忘れても、私はあなたのそばにいるわ』
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
