森は全てを記憶する ページ19
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───その次は、霊廟の一室。
男は、同じ部屋で目を覚ました。
死ぬ間際まで感じていた、極限の空腹はない。
『ボクは……』
衣服を見る。死ぬ前と同じ。
自分の長い髪を触る。死ぬ前と同じ。
おかしい。自分は間違いなく死んだはずだ。
ならばなぜ、ここに生きている？
『……千樹の王よ、あなたは、私にこのようなことを……』
望んだのですか。
放たれなかった言葉は、砂となって虚空に消える。
男は立ち上がり、部屋を出て、大赤砂海を横切り、雨林へと向かった。千樹の王を問い詰めるつもりだった。
砂漠と違い、雨林の風は生ぬるく湿っている。まとわりつくようなそれでさえ、男にとっては愛おしいものだった。
雨林では、千樹の王がアランナラと共に古びたライアーを奏で歌っていた。
『あら、どうしたの？ あなたがここに来るなんて……』
彼女は嬉しそうに微笑んで言う。
男は、彼女が自分の末路を知らぬことに落胆を覚えた。
自分をこんなふうにしたのは彼女だ。
逆恨みだとはわかっていても、何かを憎まなければ狂ってしまうような気がしていた。
『千樹の王よ。私は、死んだはずです。あなたが私をこのような体にしたのですか……あなたは砂の祝福を塗り替えたと、確かに私に仰ったはず！』
怒りは燃え上がり、男の口調は厳しいものになっていく。
彼女が私の前に座るようにと言った。男はその通りにして、彼女の深緑の瞳をまっすぐに見据えた。
『あなたは、死なずの体を持っていたわ。それを消すために、私はあなたを輪廻の円環で塗り替えた』
『ですが、私はこうして……』
『生きている。そうね。赤砂の意志は磐石で、木々が生い茂ることを許さなかった……』
彼女はライアーを置き、膝立ちになると、その両腕で男を優しく抱きしめた。
『ごめんなさい、イティアメネウ』
何度も瞬きを繰り返し、男は困惑しながらも、両手を彼女の背中に回す。
『だけど、砂塵の王の意志も理解できるわ……花神を失った彼が、あなたをも失えば、きっと狂ってしまうもの』
『……ッ、……私は……』
『ごめんなさい、
『謝らないで……』
鼻の奥がツンとする。
『これからは、私と生きてほしいの。私はいなくならないわ』
視界が滲んで、涙がこぼれた。
砂の王はもういない。花の神も、また。
それでも、森は全てを記憶して、男と共に在る。
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
