輪転の間 ページ17
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消えた壁に目を白黒させたパイモンは、私の持つ石板に視線を落として首を傾げた。
「それ、赤砂の石板に似てるけど……なんだ？」
「兄が持っていたものだ。輪転の間の鍵ってところだな」
この石板は、元々カサーレという祭司が持っていたものだ。
五百年前の厄災により祭司の家系の手を離れ、その後経路は不明だが
「ヒエログリフタブレットの『巨蛇』に似てる。それに『日の出』と『王権』も」
旅人は私の手元の石板を覗き込んで、そう言った。
ヒエログリフタブレットを集めていて、何が書いてあるかをアルハイゼンに聞いたことがあるらしい。
彼の言うことを信じるなら、『巨蛇』『日の出』『王権』がこの石板に刻まれた言葉の一部のようだ。
これが一体なにを意味するのか……
「ここが『輪転の間』か？」
がらんとした部屋には、玉座が一つ。
「『三十四』……『六十九』……なんだ？ これ……」
壁には大量に文字が書かれている。古代デシェレト文明の文字と、テイワットの共通語。
実を言うと、私は兄に拾われてから、ここに戻ったことは一度もない。だから、ナヒーダの言葉の意味がわからなかった。
「『生まれた場所に真実がある』って……どういう意味だろうな？ 壁の落書きと椅子以外、何もなさそうだけど……」
パイモンが辺りを見回し、腕を組む。
旅人も首をかたむけた。
「……玉座かな？」
木製の椅子には蛇のように蔦が這っており、背もたれの天辺に何かを嵌め込むための窪みがある。
あの形からすると、嵌め込む何かは四角錐。
四角錐といえば……私が持っている首飾りがある。
「わっ、ティア、体が光ってるぞ！」
「へ？」
言われて体を見下ろすと、確かに胸元を中心に青白く発光している。どうやら首飾りが光っているみたいだ。
やっぱり、私の想像は間違っていなかったらしい。
服の下からそれを取り出すと、光は一筋にまとまって、玉座の窪みへ吸い込まれていく。
「これをここに……ってことでいいんだよな？」
「いいと思う」
旅人の同意を得て、私は逆四角錐を嵌め込んだ。
パイモンが身構えたが、一向に何かが起きる気配はない。
「……？ 何も起こらないぞ？」
「うーん……向きが違うのか……？」
私はそれを外し、いろんな向きで嵌め直してみる。けれど、どの向きでも何かが起きることはなかった。
「座ってみたら？」
従って玉座に腰かける。
瞬間、意識が途切れた。
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
