#2 ページ8
いつの間にか、シャーペンの走る音が聞こえなくなった。
そっと振り向くと、閉じたオレンジの冊子の上に突っ伏すAの姿。
無事に書き終えたのか。
壁の時計はもうすぐ2時半になろうとしている。
5時45分には起きると言ってたから、あと3時間か。
…ベッドで寝た方が良いと思うんだけどな。
でも、起こすのもかわいそう。
「A、」と小さく呼び掛けてみたけど、起きる気配はなく。
ソファの上に置きっぱなしだった毛布を、そっと肩に掛ける。
お疲れさま。それから、おやすみ。
Aが最後まで走れますように。そんな願いを込めて、頭を撫でた。
・
ゆさゆさと肩を揺らされて、目が覚める。
目の前に、スーツを着て髪の毛もきっちり纏めたAがしゃがみこんでいた。
「新くん、行ってくるね」
「…ん?もうそんな時間?」
「うん。ぐっすり寝てたよ」
Aの起きる時間に一緒に起きようと思ってたのに、俺は目覚ましに気付かなかったらしい。
机に突っ伏していたから、背中が痛い。
「A、背中痛くないか?」
「…痛い。新くん、ベッドで寝たら良かったのに」
ふふ、と笑ってそう言うA。
やっぱり今日の夜からは、ベッドで寝るように起こしてあげようか。
Aを見送ろうと立ち上がると、肩に昨日俺が掛けた毛布が掛けられている事に気付いた。
そんな些細な気遣いが、嬉しく感じる。
「じゃあ行ってくるね」
「おー」
スニーカーを履いたAが、そう言って笑う。
あまり眠れていないからか、顔色はそんなによくない。
それに。へらり、と笑ったAの顔は、緊張からか少し固かった。
「A」
歩いていこうとするAの腕を掴んで、引き止める。
驚いた表情のAにキスを1つすると、青白かったAの肌がじわりじわりと赤く染まった。
「元気出た?」
Aの顔を覗き込んでそう訊くと、泳ぐ視線。
こっちを見て欲しいけど、照れ屋なAには少しハードルが高いんだろうな。
「もー!新くんのせいで遅刻する!」
「えー?俺のせい?」
ぽすり、と俺の肩に弱いグーパンを1つしたAは、パタパタとドアノブに手をかける。
「…元気、でたよ。ありがとう。
行ってきます!」
「…ん。行ってらっしゃい」
きっと、帰ってきたらまた昨日みたいな疲れきった表情なんだろうな。
…葵に、何か簡単に作れる夜食のレシピを教えてもらおうか。
Aが帰ってくるのが、今から待ち遠しかった。
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