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「花火やろう」
そう言って掲げられたのは、スーパーやドラッグストアに売っている手持ち花火のセットだった。
8月ももうすぐ終わり、な週末。
お仕事が早く終わったから、と部屋まで来てくれた新くんを玄関に迎え入れると、ただいまもそこそこにそんな提案がなされた。
「今年、花火してないなーって思って買ってきた」
「確かに…あんまり夏らしい事してないね」
「だろ?」
無事大学も卒業して、社会人一年目の今年。
新くんは、今まで学業に割いていた時間も丸々芸能活動に使う事が出来るようになったからか、今年に入ってお仕事の量が増えたようだった。
私はというと、無事看護師になることが出来て、1日1日を必死に過ごす日々。
気付けば夏も終わりかけで、よく頑張ったなぁ、なんて4月からの私を褒めてみる。
ちらり、と時計を確認すると、時刻は午後7時半を過ぎたところ。
新くんがこんなに早く帰ってくるのは珍しいし。
外も暗くなってきたから、騒がなければバレる事もないだろうし。
「やろっか」
そう笑うと、新くんがゆるりと口元を緩めた。
・
バケツに水を汲んで、マンションの前の道路に出る。
車通りも少ないから、ここなら大丈夫だろう。
角にバケツを置いて、手持ち花火のセットを開けると、色々な種類の花火が出てきた。
「どれからやる?」
「んー、最初はやっぱりこれだな」
そう言って新くんが取ったのは、勢いよく火花が飛び出るススキ花火だ。
新くんに倣って同じ種類の花火を手に取ると、チャッカマンで火をつけてくれた。
「うわー!」
「A、火、ちょうだい」
音をたてて飛び出る火花に感動していると、新くんが私の花火で自分の花火に火をつける。
新くんの花火からも火が飛び出て、辺りが明るくなった。
あっという間に消えた花火をバケツに入れて、新しいのを手に取る。
新くんは両手に花火を持って振り回して遊んでいる。
私も真似して両手に花火を持つと、新くんはにやりと笑って火をつけてくれた。
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