165、彼女が許せないこと ページ6
「──……」
一瞬の出来事だった。
フェイタンが逆手に刀を持ち、腕を振りかぶった瞬間、走り出した私は刀身を手で握りもう片方の手で空いた腕も掴んで強引に動きを止めた。
手のひらに刃が食い込んで血が滴る。痛いけれど、それよりも衝撃の方が強かった。
どうして、助かった命を散らそうとするの。どうして。
わからないけど。わからないけれど、私が助けた命を勝手に散らすことは許さない。
「……おま、え」
「貴方が死のうとしても、傷を癒すわ。私が助けた命を捨てるなんて、許さない。貴方の想いを、貴方の願いを諦めるなんて許さないわ」
フェイタンは私の呼び声に答えた。それが彼の不本意であったとしても、答えたのだ。
「蜘蛛のために、旅団のために生きて死ぬことが貴方の望みなのでしょう? ならばどうしてチャンスだと思わないの? また蜘蛛のために生きることができるのに、折角私が作ったチャンスを捨てるなんて許さないわよ!」
どうせなら無償で助かってラッキーくらいに思いなさいよ、と。
吐き捨てるように言って、大きく息を吐き出す。
同時に、階下で靴音がして。
「そういうことだ。フェイタン、俺はソフィアがお前の傷を癒すのを止めはしないからな」
クロロの声がした。一体、いつから聞いていたのだろうか。最初からだとしたら……、いや、フェイタンが「悪巧みしても団長がすぐ動く」と言っていた。それは、即ちその時点から居たということなのだろう。
本当に、なんて意地悪な。私の真意を図るなんて……振り返って見下ろせば、廊下の明かりで照らされた表情に苦笑が混じっていた。許せ、と言いたいらしい。
「……わかたよ」
フェイタンが腕からゆっくりと力を抜いていき、同じように私も力を抜いて彼を解放する。
刀で斬れた掌が痛むけれども、この程度なら明日の昼頃には傷跡もなくなってるだろう。
フェイタンは私の横をすり抜けて素早く階段を降りると廊下へ姿を消してしまった。
ゆっくりと階段を降りてクロロの所に向かうと、彼は傷がある方の手をとってしげしげと傷を眺めだした。
「もう出血が止まりかけているな」
「能力なのよ。っつ、!?」
クロロが軽く屈んで私の掌に口をつけている。痛みと一緒にぬめった感触が掌を撫でて、そこで私はやっと彼が傷口を舐めているのだと気付いた。
「な……にしてるの」
「いや、血を取り込んだら同じ能力を得られるのではないかと思ってな。変化はなかったが」
当たり前だ。
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ユウ - 一気読みさせてもらいました。応援してます。ヒソカ落ち希望です! (9月18日 1時) (レス) id: 9180eb740d (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 更新待ってます!!続きがとても気になります!!イルミ落ちがいいです! (2022年6月6日 0時) (レス) @page32 id: b76b8db090 (このIDを非表示/違反報告)
まや(プロフ) - 作品読ませていただきました!!とても面白くてこのシリーズ大好きです!もし、この作品がまだ更新されるのであれば、気長に待ってます!頑張ってください!! (2021年1月30日 18時) (レス) id: f151b0ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - 初めて作品を読ませていただきました!私はこのシリーズがとても大好きになりました!もし、作者様がこの作品を覚えているのであれば更新されるのを楽しみに待っています! (2021年1月1日 21時) (レス) id: 5e84d40654 (このIDを非表示/違反報告)
maki(プロフ) - このシリーズ大好きです!更新待ってます! (2020年3月24日 18時) (レス) id: 94544c805e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロ | 作成日時:2019年9月4日 4時