１７３、縮んだ距離 ページ14
「理由はあるけれど、ないの」
矛盾した発言を聞いて訝しげに眉を寄せるフェイタンに、思わずくすりと笑んでしまう。
やはりと言うべきか、予想通りの反応だった。それでもこの言葉以外に私の答えを表現できるものを知らないから仕方がない。
「衣食住を提供してくれた皆に恩返しがしたかった……というのもあるわ。でも、少し違う」
「……どういうことか」
「私が、そうしたかったから。貴方を助けたかったからなの。でもこれじゃ貴方の納得する理由にはならないでしょう？」
あの想いをどう言葉にすればいいかわからない。表現しようにも、どの言葉が最適なのかが私にはわからない。
「貴方たちの幸せを見た。全てではないけど、その欠片を。仲間を大事にする彼らを見た。蜘蛛がどうとかは私にとっては関係がない。フェイタンは、貴方という人は替えの利かない唯一の存在で、彼らの幸せの一部だった。だから」
言葉を探しながら喋ったために、ごちゃごちゃした内容になってしまった。うまく伝わるかどうかも不確かだけれど、やっと相応しい言葉を見つけて息を吸う。
「失わせたくなかったの」
穏やかで暖かい、彼らの絆が生む幸せ。それを欠けさせたくなかった。
いつか必ず、彼らに別れが来ることは理解している。人間の命は私と違って、一度なくなってしまえば二度と蘇ることはない。
私は人間をもっと見ていたい。気に入ってしまった人達なら殊更に見ていたい。彼らの幸せに触れていたい。だから、私は手を伸ばした。私の我が儘で救った。
「……お前、おかしなヤツね」
そっぽを向きながらフェイタンが呟いた。その声が以前より幾分か柔らかくなったことに気付いて、暖かい気持ちになる。
思えば以前は殺気混じりの視線を向けられてばかりだったのに、今日は一度もそういった視線は向けられていない。一度殺気を出すことはあったけど、それも私に向けてのものではなかった。
何か、彼のなかで気持ちの変化でもあったのだろうか。警戒されなくなったのはとても嬉しいけど。
「なに笑てるか、褒めてないよ」
「いえ、ただ、もう警戒はしてこないのね、って思って」
「……する理由なくなたからよ。お前みたいなお人好しいつまでも警戒する程暇ない」
「それでも、なんだか仲良くなれたようで嬉しいわ」
「、調子乗るな」
睨んでくるその視線からはやっぱり嫌悪とかの感情は感じられなくて、私はまた少し嬉しくなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 332人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユウ - 一気読みさせてもらいました。応援してます。ヒソカ落ち希望です！ (9月18日 1時) (
レス) id: 9180eb740d (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 更新待ってます！！続きがとても気になります！！イルミ落ちがいいです！ (2022年6月6日 0時) (レス) @page32 id: b76b8db090 (このIDを非表示/違反報告)
まや(プロフ) - 作品読ませていただきました！！とても面白くてこのシリーズ大好きです！もし、この作品がまだ更新されるのであれば、気長に待ってます！頑張ってください！！ (2021年1月30日 18時) (レス) id: f151b0ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - 初めて作品を読ませていただきました！私はこのシリーズがとても大好きになりました！もし、作者様がこの作品を覚えているのであれば更新されるのを楽しみに待っています！ (2021年1月1日 21時) (レス) id: 5e84d40654 (このIDを非表示/違反報告)
maki(プロフ) - このシリーズ大好きです！更新待ってます！ (2020年3月24日 18時) (レス) id: 94544c805e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：クロ | 作成日時：2019年9月4日 4時
