秘密の存在２【H×H】 (ページ44)

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【過去編】人間になったばかりの彼女は・２ページ44

三日三晩に渡る猛攻の末、女が死ぬ一歩手前で闘いは終了した。
念を会得しているとはいえネテロも中々に傷を負い、疲労はピークに達しかけている。

「お前さんよ。どうして俺にゃあ手加減する」

毎度拳を受けた瞬間にわかること。あからさまに女は手を抜いていた。
元々が獣、しかもネテロの部下を数人殺しているだけに彼女の手加減には納得がいかない。防御の時だけ念を使っていることもあるのだが、それにしたって軽すぎるとネテロは感じていた。

”ジンネテロ殺す駄目”

女は、ジンとネテロだけを識別していた。

自分が人間に興味を持った理由がジンだったから。人間の世界にやってきた時、ジンが最初に引き合わせたのがネテロで、ジンは彼に対し親しい感情を浮かべていたから。
だから、殺せば此方の世界にいられないことを感じ取っていた。

「血を抜くのも傷つけられるのも嫌いか。そりゃそうだよなぁ……」

戦う前に女が言っていたことをネテロは反芻する。
人間の姿をしているとはいえ、女は暗黒大陸の獣だ。だから調査していたのだが、女には逆効果だ。誰だって実験動物扱いは嫌だろうから、当然である。

「じゃあ、これからは傷つけることは止めにしようかの。代わりに人間についてを学ぼうじゃないか」

女は獣の瞳をネテロに向けた。ネテロは笑顔を浮かべていて、伝わってくる意思には悪意は読み取れない。

”学ぶ自由あるない？”

「人間を学ぶまで自由にはさせてやれんな」

”自由無い嫌”

「学べば理解も深まるし、自由にもさせてやる。学ぶのが嫌なら元の世界に帰ってもらう」

”……学ぶする”

渋々といった感情がネテロに伝わる。
この年になって赤ん坊ができたようじゃわい、と呟いたネテロに、割りと本気の足蹴が飛んできた。

＊＊＊

「ネテロ、この本はもう読み終わったわよ」

あれから5年。獣だった女はネテロにソフィアと名付けられ、他者への情こそ見せぬものの人の世の理を理解した。
付きっきりとは言えなかった上に、相変わらずソフィアの機嫌を損ねた者は殺されたが。人の言語すら喋れぬ頃と比べればよくよく成長した方だとネテロは思う。

「お前さん、そろそろ外に出てみんか」

「行けるの？」

こてりと首を傾げるソフィア。

「お前さんは十分学んだしの。もう此処におらんでも良いじゃろう」

相手が人の姿をした怪物であっても、約束は約束。守らねばならんと、ネテロは思っていた。

そして、ソフィアは人の世に出た。