8話 ページ8
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私はあの日感じた胸の痛みも、胸に広がったモヤモヤも、苦い気持ちも、なかったフリして過ごしていた。
こんな感情はこのまますっと消えちゃえばいい…。
それは願いにも似た祈りみたいなものだった。
でも、胸の中に生まれたカケラは、そんな私の気持ちに反してどんどん大きくなって…。
そしてある雨の日、そのカケラは、もう無視できない位に大きくなって、ハジけた。
まだ肌寒い5月の初旬。
しとしとと降る雨が初々しい青葉をぬらして、濃い緑が薫っていた。
急に止んだりしないかなー。
そんなことを思いながら玄関でしばらく空を眺めたりもしたけれど、一向に止みそうもない雨に、いよいよ諦めてカバンを頭に乗っけて雨の中に駆け出した。
わー…。ただでさえ寒いのに雨ってさぁ…。もう。
雨のバカヤロー。
私は前も見ず全速力で走った。
「A?」
振り返ると幸村君が『傘ないなら言ってくれればよかったのに』と微笑んで手招きした。
この時、聞こえないフリして通り過ぎてれば違っていたのかもしれないのに…。
私は幸村君の差し出す傘の下に入ってしまった。
幸村君はポケットからハンカチを取り出して、雨に濡れた私の髪を撫でた。
っ……////
幸村君が触れた部分が熱を帯びてくる。
「こんなに濡れたら風邪引くよ」
そう言って自分が着ていたカーディガンをふわりと私の肩にかけて微笑んだ。
「それ着て帰っていいよ。寒いから」
肩にかかったカーディガンから幸村君の温もりが伝わる…。
あったかい…。
幸村君の笑顔は、冷たい身体にじんわり沁み渡るようにあったかかった。
カーディガンからは幸村君の香りがして…
私の胸の音はどんどん大きくなって…
それは抑えようとするほどに大きくなって、息が苦しかった。
結局幸村君は家まで送ってくれて
「風邪引かないようにね」
とにっこり笑って帰って行った。
私は幸村君の姿が見えなくなるまで、その姿から目が離せなかった。
カーディガンから香る幸村君の香り、温もり、優しさに、私の胸の中のカケラは跳ねた。
どうしよう……。
思いっきり、無視できない位に、ハジけてしまった…。
トクトクと胸が高鳴って、カーディガンと触れた部分は熱かった…。
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朔 - 上手い!!上手すぎます!!!どっちも好きすぎるのですが私の答えは決まってしまいました!!! (2021年6月15日 1時) (レス) id: 2e63a126ca (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 亜弥*さん» ありがとうございます!!(*^_^*) (2015年8月23日 21時) (レス) id: 42a026aa1a (このIDを非表示/違反報告)
亜弥* - どっちにしようかまよう! あと、これからも頑張って下さい。読むのが楽しみです (2015年8月23日 1時) (レス) id: de645498d4 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 菊姫さん» 菊姫さん、ありがとうございます!泣いてくれたなんて恐縮です>_< 励みになります! (2015年2月3日 8時) (レス) id: 1b761003cc (このIDを非表示/違反報告)
菊姫 - 前のお話を読んで泣いちゃいました!感動的ですね…これから3人の関係がどうなるのか気になります! 更新頑張って下さいっっ!! (2015年1月31日 22時) (レス) id: 22b58266a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彩 | 作成日時:2014年10月20日 20時