1話 ページ1
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空がオレンジ色に変わり始める頃。
ボールの澄んだ音が空に響くのを聞きながら、私の視線は、自然とコートの中の幸村君の姿を追う。
うん、良かった。今日も大丈夫そう…かな…。
ホッと胸を撫で下ろして、校門へ向かって歩き始めると、背後から幸村君の声が届いた。
「A、 もうすぐ終わるんだけど、一緒に帰らない?」
「うん、じゃ、そこのベンチで待ってるね」
ベンチに腰を下ろして、私は再びコートに目を向けた。
幸村君は軽々と返球して、軽やかにコートを走る。
もうすっかり身体は大丈夫そう。
でも…
やっぱり心からの笑顔じゃない…。
香月が亡くなって一年経った今も、やっぱり抜け出せないんだ…。
仕方ないよね…。私もそうだし…。
1年なんてあっという間で、まるで昨日のことのように感じる。
同じ人を大切に想い、失った私たちは、同じように喪失感から抜け出そうともがく戦友だ。
香月を思い出して辛い時は、一緒にファミレスで夜を明かしたり、オートテニスで気を紛らわした。
だから私は幸村君を支えたいと心から思う。
彼の切なさや苦痛がよくわかるから…。
幸村君と香月は私の理想のカップルだった。
二人はお互いをとても大切に思い遣っていて、笑顔が溢れていて、二人の間には常に温かい空気が流れてて…。
心優しい二人は、恋人になる運命だったんじゃないかって思うほど、自然でぴったりだった。
私はそんな二人の幸せそうな姿を見るのが好きだった。
だから幸村君を支えたいと思うこの気持ちは、恋じゃない…。
うん。違う。恋じゃない…。
そんなことをぼんやり考えていたら、部活を終えた幸村君が走ってきた。
「お待たせ」
「ううん、大丈夫。行こっか」
幸村君は優しい瞳でにっこり微笑んだ。
私はちょっと見とれた自分に焦って、明後日の方を向きながら足早に歩き始めた。
「幸村君、今年の香月の一周忌のお墓参り、今週末でいい?」
「うん。そうだね。もう1年も経つんだね…」
そう言って遠くを見た幸村君の横顔はあまりに切なくて、私のほうが泣きそうになった。
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朔 - 上手い!!上手すぎます!!!どっちも好きすぎるのですが私の答えは決まってしまいました!!! (2021年6月15日 1時) (レス) id: 2e63a126ca (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 亜弥*さん» ありがとうございます!!(*^_^*) (2015年8月23日 21時) (レス) id: 42a026aa1a (このIDを非表示/違反報告)
亜弥* - どっちにしようかまよう! あと、これからも頑張って下さい。読むのが楽しみです (2015年8月23日 1時) (レス) id: de645498d4 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 菊姫さん» 菊姫さん、ありがとうございます!泣いてくれたなんて恐縮です>_< 励みになります! (2015年2月3日 8時) (レス) id: 1b761003cc (このIDを非表示/違反報告)
菊姫 - 前のお話を読んで泣いちゃいました!感動的ですね…これから3人の関係がどうなるのか気になります! 更新頑張って下さいっっ!! (2015年1月31日 22時) (レス) id: 22b58266a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彩 | 作成日時:2014年10月20日 20時