第64話 ある日森の中で ページ17
「あるーひー♪」
「もりのーなーかー♪」
「いのしーしにー♪」
「であーった♪」
審神者と小竜が全力で歌いながら逃走していた
後方には興奮した猪
非常に、非常に興奮していた
特に何をした訳ではないのだが、もしかしたら縄張りに入っていたのかもしれない
「花咲く♪」
「血の池だ〜♪」
「いやだー！！」
足止め用の印を結びたくても、全力で茂みを掻き分け続けなければ、突き飛ばされてしまうだろう
故に２人は走るしか無かったのだが
「ヤバいよ主！開けた所が見える！あはは！！」
「万事休すー！！」
咄嗟に審神者は、近くの枝に向かって跳ぶ
かと思うと、その勢いのままくるりと１回転し、枝の上に着地する
それを真似して、小竜も隣の木へと跳んだ
小竜は少しだけ息切れをしながら、隣の木にいる主へ話しかける
「主って意外と身体能力高いよね〜」
「全ては兄さんと国広ブートキャンプのせい」
「せいって言うんだ……」
一息吐いてから、審神者は印を結び、猪の動きを止める
「今日ぼたん鍋にする？」
「今からだとちょっと時間的に厳しくない？」
今は少し日が傾き始めた頃の時間帯だ
裏山にいる２人が戻る頃には夕飯の支度が始まり、解体してる間に恐らく夕飯が始まっている
その為、ぼたん鍋にするのは諦めようと審神者はため息を吐く
「それじゃ数分後に解けるようにしたから、今のうちに本丸帰ろう、小竜」
興奮した猪は雄叫びを上げている
しかし、２人はようやく追いかけ回されることから解放されたのだ
猪に背を向けて、再び走り出す
数分後、術が解けた猪は、彼女たちが過ぎ去った方向を静かに２、３秒だけ見ると、元来た道を引き返していく
小竜たちが本丸に帰れたのは、案の定夕方であった
そもそも彼らは裏山へ山菜を取りに行っていたのだが、
「聞いてよ厨房組ー！」
「途中て猪に襲われて山菜全部落とした！」
「小竜くん？」
小竜と同じ長船派の燭台切が静かな怒りを見せた
だが数秒後、ため息を吐いて「猪は仕方ないね」と続けた
「怪我は無いですか？」
「なんとか！ごめんね、本体とか札とか持ってくべきだったわ」
「調子に乗って奥まで進んだのが敗因」
面目ない、と２人は同時に頭を下げ謝罪する
「次は一撃で仕留めるよ」
「というか抱えてもらえば私印結べたんじゃない？」
「……確かにそうだね！？」
「よーし反省会しよう！！」
そう言うと２人は厨房を飛び出し、反省会を開くのであった
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作者名：とあるさにわ | 作成日時：2022年5月31日 14時
