第62話 思いはいつでも ページ15
「幼い私を守ってくれて」
「……俺は……！」
ぼろぼろと、涙を溢す山姥切
それは初めて見たと思うぐらいには見せなかった、彼の涙
山姥切は寝る度に、主である審神者が連れ去られる夢を見た
様々な要因で、審神者が苦しむ夢を
その度に起きては、腕の中で眠る主を見て「守る」という思いが日に日に強くなっていた
始めは、２人ぼっちの旅路
それを審神者は覚えている
たった１人しかいなかった彼にとって、主を失うことはどこまでも恐ろしかったのだ
どこまでも怯え、名を呼ばれればどんな存在であろうと斬り伏せた
「貴方はもう、独りじゃないのよ」
彼の目の前にいるのは、どこかから来た主と何人もの刀たち
震える手で、山姥切は頬に置かれた小さな主の手を覆う
「大丈夫。もう心を許していいのよ」
優しい声が
どこまでも優しい声が波紋のように山姥切に響いていく
嗚咽を漏らし、彼は子供のように泣きじゃくる
恐怖に支配されていた彼の心は、今ようやく少しだけ解放されたのだ
そんな審神者は、無慈悲に告げる
「というわけで、大人しく手入れ受けてねまんば！！」
「……今言うか！？」
無邪気な顔でそう告げる
それはそうだ
この頃の山姥切は本気で無茶ばかりをしており、本来なら折れててもおかしくない状態だった
涙を引っ込めて、むすっとする山姥切
布は、被っていなかった
彼にとって、自分より主が気にしていた自分の容姿を「お揃いだ」と宥める為にも人前以外では外していた
その言葉を聞いた時、審神者は笑っていた
だから、この頃の彼は被ってなどいなかった
……後に審神者が自分の見た目を気にしなくなれば気にしなくなるほど、彼は布を愛用するようになるのだが、これは別の話である
「そりゃそーでしょ！その為にわざわざたっかい紙使って今ここに来たんだから！！」
審神者が叫ぶ
霊力の込められた高い紙で符を作り、そして印を組んでは遡行をした
これには兄の月詠も驚き声を上げる
「待って」
酷く狼狽えている様子だった
「えっ、何……いやでも＊＊なんだよね？」
「そーですよ、兄さん」
それから頭頂部を指して続ける
「この目線懐かしすぎて禿げそうなので、兄さんに将来的に禿げる呪いかけていいですか」
「的確かつ嫌なやつ！！」
普段定期検診に行く度に色々な事をやらされる審神者にとって、月詠は「尊敬できるし大好きだけどムカつく人」のポジションに収まっているのであった
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作者名：とあるさにわ | 作成日時：2022年5月31日 14時
