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「お前が主演を勝ち取った映画、この前咲希と見たぞ」
「本当? どーだったかな、天馬家的には」
私が主演をやった映画。
それは少女漫画の実写化という企画で、オーディションの話を持ちかけられたときはかなり驚いた。それと同時に、燃えた。
原作を古本屋で一気に購読したはいいもののあまりそういったものに詳しくなかった私。
登場人物の言動に理解が及ばず、相当難航した覚えがある。
どれもこれも、スターの隣に並んでも恥ずかしくないような存在になるために。
「咲希はもう大絶賛だったぞ! 『雛が巣立ちしたときの親鳥の気分』とか言ってたな」
「咲希……」
私は知らないうちに、咲希に育てられていたらしい。
「それで……司はどう、思いました?」
膝の上の手に力が入る。
なんで敬語なんだ……と言われて、ごまかすために「いいからっ」と急かした。
「そう、だな。やはり、お前の演技は素晴らしいなと思ったぞ。流石はオレと共にショーをやってきただけある!」
「えへへ」
やけに歯切れが悪いなとは思ったけど、素直に褒められるのは嬉しい。
私ね、司にそう言ってもらうために頑張ってるんだよ? ――なんて、言葉にして伝えることはできないと思うけど。
「ただ――……いや、なんでもない」
何かを言いかけて、司は口を噤んでしまう。
私に言えないようなことを思い浮かべたのかと思い、また胸が痛くなった。
「……そ」
何気なく返事をしたつもりだったけど、落ち込んでいるのがあからさまだったかもしれない。
このくらいの演技もできないようじゃ、芸能界でも生き残れないね。
だったら、もういっそ――。
「って、私が納得するとでも」
「な、なんでもないと言っただろう!!! ちゃんと!!」
お得意の大声でごまかそうとされてしまうけど、構わない。
「辛口な批評でも、正直なダメ出しでもなんでもいいの――司の思ったことなら」
下唇を嚼む。
怖いけど聞きたい、聞きたいけど怖いなどというジレンマに悩まされながらも、口にしてしまったからには取り消せない。
……うん。
私、何も嘘は言ってないじゃないか。
だから、不安になる必要だって、ない。
つかの間の沈黙の後、司が口を開いた。
しかし、何やらきまりが悪そうに視線を泳がせ続けている。
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あきいろ(プロフ) - もみじさん» 恐縮です!! しかし毎秒更新となると比喩とかじゃなく作者がしんでしまいます (2023年2月1日 6時) (レス) id: 1e0caf27cc (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - うちも死ぬほど好きです。死ぬほど欲を言うと毎秒更新してほしいです← (2023年1月31日 23時) (レス) id: d88f17f239 (このIDを非表示/違反報告)
あきいろ(プロフ) - りにゃぴさん» しぬほど嬉しいです……あまり更新できてなくて申し訳ないですが、もったいないお言葉ありがとうございます!! (2023年1月16日 6時) (レス) id: 1e0caf27cc (このIDを非表示/違反報告)
りにゃぴ(プロフ) - えっしぬほどすき。もっと評価されるべきだろ (2023年1月16日 2時) (レス) @page32 id: c7173f4811 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年7月27日 20時